偶然の一致

 この寒さではもっと早くにそうなるのではないかと思っていたが、よ
うやく瓶入りの蜂蜜が底の方だけ固まった。
 パリでは、朝市で、自家製の蜂蜜売りから毎回違う種類を購入して味
比べするのがささやかな贅沢だった。ところが、帰国してからは、輸入
品を混ぜ合わせた量産品でお茶を濁すばかり。
 しかし、近隣国などからの輸入品には粗悪品が多いというテレビ報道
を見て、やっぱり、少しぐらい値が張っても国内産100%にしようと
思った。すると、所用で降り立った駅前にデパートの郊外店があり、時
間つぶしに中を覗いたら、愛媛からの出張販売に出くわし、これはもう、
買うしかあるまい。
 ただ、蜂蜜は、品質に関係なく、寒くなれば固まる。そうなる季節が
間近だったので、迷いに迷って小瓶を選んだ。なのに半分以上食べても
固まる気配がなく、大瓶にしておけばよかったかなあ、と後悔しかけた
ら、今朝、無事に(?)底が固まっていたのだ。
 心に思うと、現実にそうなる。フランスのスキー場で「なんか、あの
人に会いそう」と感じたら、案内所のカウンターで、日本からグループ
でやって来たという知人と鉢合わせしたようなことも含め、この手の現
象には事欠かない。
共時性」もしくは「シンクロニシティ」と呼ばれ、“意味ある偶然の
一致”と解釈されるらしいが、修行により徳を積むとそういう現象にた
やすく遭遇できるようになると説く宗教があると聞くと、「へ?」であ
る。会いたいと呪文のように唱えても会えないのは、会う必要がないシ
グナルと考えれば済む話で、それを徳だとか高邁な精神性と結びつけよ
うとするところがおおいに怪しい。ま、私を知っている人なら、即座に
幻滅して目が覚めてもらえるところなのだが。
 たぶん、「第六感」が人よりちょっと鋭いだけなのだ。
 それに “意味ある偶然の一致”と言うなら、私の場合、組み立て家具
の当たりの悪さにそれを感じる。
 去年、通販で買った物でひと騒動があったばかりのところに、年明け
早々、また一件。たかが簡易のハンガーラックがキャスターを入れる部
分に不備があり、交換の手間が必要となった。
 こうも同じトラブルが続くと、日頃の精進が悪いせいか、何かの祟り
かと勘繰りたくなるけれど、私としては、運命に「試されているのだ」
と、その対処の方法に気を配るだけで、決してそこから因果の物語を創
り出さないことにしている。