お餅はお好き?

 朝の空気が痛いと思ったら、マンションの中庭は一面の霜。裏の空き
地も同様である。しかし、我が家のカナリアは高らかに歌い始め、日の
出前の暗いさなかにさえずって、まもなくの夜明けを告げる夏の野鳥の
ごとき生態を見せている。
 この寒さだと、まだ当分は“餅”が美味しい季節が続いてくれそうだ
なあ。
 生醤油、砂糖醤油、きな粉、あつあつのお湯に浸けても乙な味。
 きのうの昼は、醤油と迷った末、たっぷり砂糖まぶしのきな粉にした。
 美味しくて、手っ取り早いのだから、こんな重宝な食べ物はない。
 ところが、日本食をなんでも食するフランス人が「餅だけは苦手」と
告白した。
 フランスの田舎にいた頃、唯一の日本人女性が「一人で食べても美味
しくないから」とぜんざいを振る舞ってくれたが、その時は、そうか、
彼女のフランス人の夫と、日本人の血を半分受け継ぐ息子の口に合わな
いんだ、と単なる個人の好みに帰結させて納得してしまった。だが、ど
うやら、そうではなかったらしい。
 早速、私もフランス人になったつもりで食べてみた。
 すると、餅そのものに大した味はないし、何より口の中のあちこちに
張り付く感触が気持ち悪い。
 テレビ番組でt.A.T.u.が食べさせられ、一口で「うぇー」と反応し、
中居正広に「なんで、なんで、こんな旨いもん」と無理強いされても二
度と口にしなかったが、初めから、そうなるだろうことは火を見るより
明らかだった。
 しかし、私は日本人なので、彼らの味覚におもねったりはしない。
 ではあるが、わざと一瞬、西洋の感覚にワープしてみたりして、両者
を行き来する楽しみを味わっている。
 ただ、やりすぎて、向こうに行きっぱなしにならないようにしなくて
は。
 そんなことをしなくても、喉に詰まって死ぬ確率が高まる頃には、ど
んなに好きでも諦めるしかなくなるのだから。