究極の「一期一会」

 スーパーで九十八円の食パンに手を伸ばしたら、カートを押すでもな
くぼんやり突っ立っていた白髪の女性から、
「それ、美味しいですか」
 と話しかけられ、値段の安さに惹かれただけの私は、あわわっ、と心
の中で冷や汗かきつつ、「さあ、どうでしょう・・・」
 マンションの裏口から出ようとしたら、ガラス扉の向こうに、私を見
つめる男性がいる。インターフォンで家の人にオートロックを開けても
らうより、私が出てくるのを待つ方が早いと考えたんだな、と予想し、
外へ出た途端、
「この鳥、どうしましょう・・・」
 見ると、足元に三十センチほどの野鳥。飛ばずにずっとそこにいるの
で、怪我をしているのかも、とは男性の見解である。
 女の私にすがるかァ〜。いや、予期せぬ事態に戸惑い、相談相手がほ
しかったのよね、と気を取り直し、まずは本当に怪我をしているのか確
かめようと手を伸ばしたら、鳥はパサパサ音を立てて低く飛び立った。
 目で追いながら、男性が「大丈夫ですよね」
 私は「さあ、どうでしょう・・・」
 かと思えば、昼食を済ませて母と落ち合い、母はまだだと言うので、
うどん屋に入り、私が「うーん。抹茶パフェにしようかなあ」と言うと、
母より先に、隣の、二人席の中年夫婦の奥さんの方が「それは寒いワ」。
 外のショーケースにデザートは冷菓しかなく、メニューもそうだった
ので、仕方なくの選択なんだけどなあ。
 それにしても、大胆に会話に割り込んできましたねえ。私は苦笑する。
 壁に「きな粉餅」の貼り紙を見つけたので、彼女にも及第点がもらえ
る注文になったはずなんだけど。
 こういうことがあるたび、見知らぬ人にいきなり話しかけられる不意
打ちを、誰も皆、同じような頻度で経験しているのかなあと思う。
 もし私だけ特に多いのなら、私は、その意味を考えなくてはならない。
人生に繰り返し起こることは、そこから何かに気づくべし、と天がサイ
ンを送ってきているそうで、気づくまで、続く。
 で、思ったのは、私が独身ということ。
 歳を取り、一人の時間が膨大に長くなる状態を想像すると、たとえ一
瞬でも、話しかける相手に選んでもらえることは、とても幸福なことか
もしれない。
 そうお気楽に納得したところに、アメリカ人のエッセイストが、日本
では誰かと自然に出会うチャンスが非常に少ない、と書いているのに出
くわした。
 ナンパとは違う、自然な出会い。
 今、それについて考えている。