昭和時代の絵本

 前回の日記に、ちょっと補足。
 英語の絵カードの単語しか覚えていない子供達が、次の段階で、私が
英語でヒントを言うと、そのカードを難なく言い当てられるなんて眉唾、
と思われたかもしれないが、相手は日本語も修得途上で、日本語がわか
らない時は、すかさず「それ、何?」と聞く子供達だというところに、
その秘密はあるのだった。
 彼らは、耳がとらえた二、三の英語から私の言った文章を類推し、自
分はこう理解したけど、それでいいのか、と確かめずにいられない習性。
私は、彼らの理解があっていれば頷き、間違っていれば、別の言葉で説
明し直すか、じっと目を見つめて、ほかの解釈を閃いておくれと念を送
り、すると、必ず正しい理解に到達してくれる。おかげで、私自身は英
語しか喋らないレッスンが成立させられている。
 補足をもう一つ。
 本屋に子供用の洋書を見に行ったというところから話が大きく逸れて
終わったが、実は、洋書コーナーは、大人用のペーパーブックスも含め、
跡形もなく消え失せていた。
 別の郊外の大型店でも同様の事態で、「小学生から英語」の国策に逆
行する気がしないでもないが、勇(いさ)んで洋書を置いたはいいが、
売れなくて、方針転換したのかもしれない。
 私は、一瞬、呆然としたものの、すぐに目がキラキラ。
 代わりに、古書コーナーが出現しているではないか。
 五年、十年ごときではない古本達。
 挿し絵は時代を感じるのに手っ取り早いので、全巻揃った小学館
『世界名作童話全集』を取り出してみた。
 ハーメルンの笛吹きちびくろさんぼ、シンデレラ姫など、馴染みの
お話。
 が、挿し絵がどうもしっくり来ない。昭和五十九年初版発行ゆえの古
くささのせい? いや、違う。
 別巻で三冊出ている日本の昔話と童話と神話の挿し絵の方は、真ん中
分けの神話時代の長髪も、かぐや姫のあでやかな着物も、雪国の簑も、
ちゃんと懐かしく受け入れられた。血が繋がる祖先のことだからかなあ。
挿し絵作家も、日本のお話の方が、断然、筆が冴えている。
 当時の定価、千二百円が、たった二百円。
 今を逃さず購入せよ、という天からお告げか。
 幼き後輩達にも、日本の昔話や伝承を聞いて育ってほしいから。
 よーし。英語を教えている保育園に差し入れだあ。
 重たいので、神話と昔話の二冊にした。
 が、私の、日本人としての郷愁が目覚めてしまったのか、未だに持っ
て行けずにいる。