子連れ忘年会

 英語教師をしている保育園の忘年会があった。平日は延長保育などで
時間が取れないし、園長が夫婦で出席するとなると、彼らの子供は留守
番させるには幼すぎ、週末の夕方という妥当な選択である。
 ところが、ほかにも子連れの先生がいた。
「本当は子供と離れたかったんだけど、旦那も今日、忘年会だって言う
から」
「え、週末に?!」
「私が今日あるって言うのが早すぎたのかなあ。失敗したなあ。でも、
九州男児だしなあ」
 小学生と四歳児なら、一緒にいるだけで子守りになるだろうに、それ
すら嫌だと逃げても“九州男児”で赦されるとは、レッテルは便利なもの
だ。
 もちろん、これは皮肉。“九州男児”でなかった場合は“男”と言い換え
て、彼女は納得したであろう。
 そんなことを聞いたあとだったので、ドイツ人と結婚した友人が夫に
家事などを命じるのを見て、それが普通なのかと驚いたと言い、日本人
と外人とどちらがいいかと聞かれたら、成り行き上、私は「西洋人」と
答えることになる。
 ま、少なくとも、妻の忘年会の日にわざわざ外出の予定を作ったりし
ない人が望ましい。
 私達は、二次会のカラオケスナックに席を移していた。仕方なく、子
供達も同伴だ。
「遅くなると思って、今日は昼寝をさせてきた。ついでに私も」と準備
万端でも、大人の聖域にやすやすと子供達を招き入れてよいものか。大
人の都合で大人と子供の境界線をなし崩しにするのは、長い目で見て子
供達から幸福なる子供時代を奪うことになるのだゾ、と、あとになれば
いろいろ意見は出てくるけれど、その場は無言。どのみち他人(ひと)
の子だしね。
 それにしても、カラオケに子供アニメの曲もあるとは知らなかった。
その場の雰囲気に慣れると、次の番を押しつけ合う大人を尻目に「これ
が歌いたい、あれが歌いたい」と要求する子供達。二歳児までマイクを
握って熱唱し、ボタンを押して選曲する親はまるで下僕だ。
 カラオケが苦手で、歌もあまり知らない私が自信を持って歌えたのは
「Jingle Bells」のみ。
 でも、日本語で喋りまくっていたので、保育園で私を英語しか喋れな
い人と認識していた九州男児妻の下の子から「なぜに」と問われたと帰
りの電車の中で耳打ちされ、私は「魔法で、今夜だけ喋れるの」と子供
に向かって言った。
「すき焼きを食べたのも、カラオケで歌ったのも、私が日本語を喋った
のも、みんな一夜の夢なのよ」
 特にカラオケスナックは、あすの朝には絶対に夢だよ。