カセットの威力

 デジカメの液晶画面がブラックアウトするようになったのは、私がそ
ういう設定にしたからだと、メーカーに問い合わせて、判明した。
 六年前は、撮影にはファインダーが使えるのだから、液晶画面を消す
ことで少しでも電池の持ちを良くしたいと考える人が結構いたのだろう。
だから、私のデジカメは、撮影モードの時だけ、液晶画面を消すことが
できる。
 そんな設定ができるとは知らなかったが、設定ボタンはいつも目にし
ていた。ただ、なんのためのボタンかと考えてみることもなければ、実
際に押して効果を見てみようともしなかった。
 かように私から無視され続けた設定ボタンであるが、六年目にして、
ついに私に無意識に押される日を迎えた。
 同時に、ファインダーもようやく私に認識されることとなり、おかげ
で私は、万一、液晶画面で撮影できなくなっても、ファインダー撮影と
いう明るい未来を確認できた。
「コレが駄目でもアレがある」って、ありがたいなあ。
 フランス人の友が来日中にカラオケに行きたいと言うので、カラオケ
好きの友を助っ人に呼んだ。
「なんでフランス人がカラオケ?」
「発祥の地のを体験したいんじゃない」
 正解だったみたい。
 パリにはまだないのか、個室カラオケを見て、フランス人は驚愕。
 そして歌いまくった。
 日本語が初級以下なのに、日本語の歌を歌いたいと所望され、困って
閃いたのが、童謡。私が歌うとなんとか付いて来れたので、片っ端から
童謡を入力していった。
 すると、「は〜るのおがわは」とか「きしゃきしゃシュッポシュッポ」
と彼女は次々歌を消化していったが、ソファーから立ち上がった方がよ
さそうに、体で大きくリズムを刻む。
「ノリノリやでェ」
 私は小声で呆れ、日本の友は涙目で大笑い。
 ちなみに、童謡・唱歌は、外国人の日本語学習に最適だと発見した。
 一つの音符に一語が乗るので、促音拗音も一拍と数える日本語の発音
を体得できる。
 私は、母に、母がカラオケ用に多数所有しているカセットの中から一
つダビングしてくれるように頼み、フランス人にプレゼントした。
 YouTubeに気が付いたのは、彼女の帰国後。
 早速、彼女が聴き取れそうで、画面の下に歌詞が入った何十曲かのU
RLをメールしたら、彼女のパソコンではYouTubeが見られないとか。
どうやっても解決できない。
 カセットはもう生産終了でいいでしょう、と冷ややかな眼差しの私だ
ったけど。
 ごめん。
 君達は、まだまだ必要だわ。