モンサンミシェル(フランス旅行記)

 以前、モンサンミシェルにパリからTGVで行った時は、一泊したの
に、修道院をさっと見て回っただけの記憶しかなかったので、今回、L
夫妻宅に滞在中、連れて行ってもらえたのは嬉しかった。それも案内ガ
イド付き。
「こんなにガラ空きなのは初めてだ」
 駐車場でムッシューLも驚いたほど、いい感じに過剰な混雑を免れた
のは、二月という季節外れのおかげだろう。
 ただし、ニホン人観光客は例外。
 私達の車の横に駐車したのがすでにニホン人一家だったが、王の門を
くぐれば、そこにもここにもどこにもニホン人。シャッターを押したら、
見知らぬニホン人も写ってしまう。
 で、あれ、そう言えば、ブルターニュ地方に黒人はいないなあ、と気
がついた。
 フランスは白人の国、と信じそうになるのは、ニホンの雑誌やメディ
アが偏向した情景を切り取って伝えているせいだと、パリに一歩足を踏
み入れただけでわかる。パリには、黒人や黄色人種などの移民を引き寄
せられるぐらい雇用があるのだ。ブルターニュはそうではないので、結
果的に、ニホン人の幻想が実現していることになる。
 私は、モンサンミシェルで何度か、
「シャッターを押してくれませんか」
 と頼んだ。
 ニホン人にも頼んだ。
 ドライブインとは違って、ここにいるニホン人はとても気さくで、行
き当たりばったりに誰に頼んでもいいぐらい。
 撮ってもらったあとは、必ず、
「撮ってあげましょうか」
 と聞く。
 大抵、一瞬ためらったのち、
「じゃあ、お願いします」
 とカメラが差し出される。
 卒業旅行とおぼしき女子三人組もそうだった。
 でも、
「後ろは別にどうでもいいです」
 それはないんじゃないの。
 もう二度と来ないかもしれないんだよ。
 私は、彼女達の背後の修道院をてっぺんまで収めるべく、霧雨の中、
しゃがんで構図を決めた。
 念のため二枚写す。
 画像を確認して歓声を上げ、頭をぺこぺこ下げる三人。
 そこまで狂喜する彼女達を見て、L夫妻の妻イザベルはいたく感動。
 さして感動しない自分が鈍感みたいに思えてくる。
 帰りに行ったサン・マロの城壁の上では、さすがにニホン人はいなく
て、若い白人カップルの男性に撮影を頼んだが、その男性に、
「あなた達の写真を撮ってあげましょうか」
 と聞いたのはイザベル。
 男性がカメラを渡した。
 私は、絶対そうするぞ、と見守る。
 案の定、男性が恋人の肩に手を回し、二人は恥ずかしげもなくからだを
密着させて、最高の微笑み。
 嫌になるほど、これが、こちらの定番カメラポーズなのだ。