自分自身がミステリー

 以前、エアロビクスを習っていた。
 その文化教室には社交ダンスのクラスもあった。入会金をもう一度払
う必要はないので、最低限度のステップを身につけておいたら西欧社会
で役に立つだろう、と受講を決意。
 一回のレッスン中にスタンダードとラテンの両方を教わるが、ワルツ
などのスタンダードの方が、チャチャチャやサンバのラテンより私には
適性だろうと予想していた。
 生まれて初めてステップを踏んだ私を見て、講師の女性は、私はラテ
ン向きだと言った。自分のことは存外自分ではわからないものである。
 男女で組んで踊る時、先生が男役で手を取ってくれると、私はダンス
の素質があるんだわ、といい気な勘違いをしそうになる。魔法だ。
 ところが、生徒の年配の男性達は、新米の私が下手すぎてまともに踊
れない、と露骨に不満を表わす。嫌になって一ヶ月でやめた。
 なぜ、こんなことを思い出したかというと、これで四度目の登場とな
るが、ラ・コンパニー・クレオールのことを考えたのだ。
 やる気が出ない時に彼らの音楽を聴くと、一瞬で気分が乗り、集中力
にスイッチが入る。
 けど、なんでカリブ海のラテンの歌なんだろうと不思議に思ったら、
社交ダンスでもラテンの方が合うと言われた私だったなあと思い出され
たのだ。
 スペインで買ったカセットテープのことも思い出した。
 正確に書くべく、久しく開けていないカセットテープの缶の中を探す。
 ありました。Raya Realというスペイン人男女グループの歌。
 初めてフランスに住んだ時、着いて早々、仕事を兼ねてスペイン南部
からイギリス領ジブラルタルまで陸路の旅に連れて行かれた。
 休憩で車を停めて立ち寄る町の雑貨と土産物の小さな店の軒先に、絵
はがきやカセットテープ。フランス人の同僚が、夫の土産にと言ってカ
セットテープを選んだ。
 春だが日差しは苛烈で、そう言えば、彼女は、現地で熱射病にかかっ
たのだったなあ。
 私は、別に来たくて来たわけじゃない、と暑さにげんなり。でも、自
費では一生訪れないかもと思うと、なるほどカセットテープは自分への
土産にもよさそうである。
 スペイン語は読めないので勘で選んだが、正解だった。フランスに帰
って聴いたら、全曲好きな曲だったのだ。同僚が買ったのを聴かせても
らったら、よく似た音楽でそれも好き。
 ギターと太鼓とカスタネットのリズミカルな伴奏に腹の底からの歌声
が乗って、踊れないのに踊りたくなる。
 これもラテン音楽・・・。なぜなんだ。