言葉ひとつ

 先日お葬式に出席した。
 香典は辞退する、と葬儀社が用意した定型の案内状の中のみならず、
喪主家族からのメールでも駄目押しされ、それでも持って行って受け取
ってくれるか試してもいいが、愚直を選び、香典はやめることにした。
 葬儀社のホームページを見ると、供花(きょうか)を頼める。
 選べる種類がないが、無料電話で相談してみよう。
 今予定されている祭壇周りの供花の数などを聞くと、
「担当者ではないので」
 詳しいことはわからないと言われ、担当者か、よくわかる者にあとで
電話し直させるという対応を取る気はないらしい。
 話を続け、供物(くもつ)を注文することにした。
 果物、缶詰、飲み物、干物の四種類のみで、どれも一律の値段。供花
のような見栄えに仕上げるために値段の大半を充てて、内容はしょぼい
が、仕方ない。
 その日に葬儀会場で現金で払いたい、でも喪主家族にその場面を見ら
れたくない、と希望を述べた。
 すると、受付けで支払ってもらう、お客様一人一人の要望に個別に応
えることはしていない、それに、たとえばコンビニでお金を払う時にレ
ジ以外で支払うことはないですよね、と言われる。
「この方法が嫌なら振り込みを選んでください」
 たぶん、私はその段階で臍が曲がり始めていたのかもしれない。
 振込先を聞いた。
 相手が倦んだ口調で銀行名を述べる。
「振込手数料はこちら持ちですか」
「もちろんです」
 この言葉で気持ちが固まった。
 テレビで紹介されて話題の葬儀社ということだが、
「ちょっと考えます」
 電話を切り、当日、百貨店で気に入る和菓子を詰め合わせてもらって、
気持ちよく持参できたし、金額も大幅に抑えられたので、その意味では
電話して良かったことになるが、この顛末を話したら、ベンツおじさん
は、自分ですら、
「申し訳ごさいませんが、そちら様でご負担いただくことになりますぐ
らいのことは言う」
 と言ってくれた。
 が、そもそも、その日、受付けで葬儀担当者に言えば、少し離れた場
所で支払いの処理をしてくれるはずだと。
 私もそう思ったけど、電話で確認したら、違う答えが返ってきたんで
すよ。
 この一件で学んだ。
 丁寧な言葉を遣えば良いサービスになるわけではない。
 ホテルでも何でも超一流は、今回の私のように愚かしいことを聞く客
であっても、客が気を悪くしない言い方で納得させられるスタッフを擁
しているから、超一流なのだ。
 言葉一つで、人は気持ちが変わる。