煙草で死ぬ時

 先日死んだおじは、喫煙が原因で肺気腫からCOPDになり、鼻チュ
ーブ、カニューラでも呼吸困難になって救急車で運ばれ、その後、一度
も家に戻ることなく、九ヶ月後に命を終えた。
 何度か見舞いに行ったが、ある日、病室の廊下まで近づいたら、便の
臭い。
 すぐにおむつ交換専門の人達が出てきたから、そういう時間帯に行き
合わせてしまったらしい。カートの周りには何重にも巻かれたビニール
袋。中は見えない。それでも臭いは漏れるんだなあ。
 食べて、出す。
 生きている証拠である。
 だが、おじは口から食べるには人工呼吸器を一時的に外さねばならず、
そうしているあいだに呼吸不全に陥るから、口以外からの強制栄養補給
だと、そういう独特の便の臭いになるのだろう。
 そして、頻繁なる血液検査。
 肺炎にかかれば、抗生物質
 もう駄目そう、と医者が告げ、しかし薬を処方すると、おじのからだ
は素直に反応するらしく、持ち直す。
 おじは、言葉が喋りづらくても、話せる。そうであるなら、胃瘻の代
わりの鼻チューブで栄養を送るのも、太ももから中心静脈に栄養輸液を
注入するのも、延命治療とわかっていても、しない選択は、私が家族で
あってもできなかっただろう、と思うようになった。
 何より、おじ自身がそういう状態でも生きたいと思っているのだろう
し。
 ところが、おじの死後、 
「何言ってんのん。何回、殺してくれって言われたか」
 と、おば。
 言われるたびに、そんなことをしたら私が殺人で捕まる、と返したそ
うだが、苦しげなおじを見ているのは辛かったとか。
 顔を覆おう人工呼吸器に圧迫され続けた鼻は骨が剥き出しになり、腕
は採血しすぎて日焼けしたみたいな色。死の二、三日前から尿が出なく
なり、葬儀で僧侶が叩く大きなけいすぐらいまで顔がパンパンに腫れた。
でも、棺の中のおじは見られた顔にしてもらえて、よかった、とおばが
語る。
 えっ・・・。
 尿が出ないのに、点滴をやめてくれなかったの。
 ならば、血液検査も最後の最後まで続けられたのかなあ。
 どうやっても血液中に二酸化炭素が溜まりすぎ、あとはもう死を待つ
ばかりになり、おじの脳はようやく穏やかに昏睡状態になれても、肉体
的には最後まで無駄にいたぶられたようなもの。
 煙草をやめなかったせいの自業自得、と突き放してもよさそうだが、
これが病院で死ぬと言うことなのか。
 煙草さえ吸わなかったら、こんな死に方にはならなかった。
 おじは馬鹿だ。