野菜も半加工食品だったのね

 列車の外を流れる景色。山々の中にぽつんと柿の木があると、その実
の柿色は周囲から浮き出る存在感で、切り絵作家・滝平二郎が描いたよ
うな昔の里山暮らしとまったく無縁の人生であっても、ああ、日本の秋
が来た、としみじみ懐かしく感じるから不思議である。
 私は柿が好き。頬張った途端、ずるりと実がくずれるようなのが大好
きなのだが、固い種類もそれはそれで味わう。ああいう柿の木の持ち主
の人は、取って食べようと思わないのだろうか。
 と思っていたら、家に成ったという柿をもらった。食(しょく)して
みて、おいしい柿は、ただ生えて伸びて実が成っただけでは手に入らな
いことがよく理解できた。
 続いて、さつまいもをもらう。柿の場合は小振りでも見た目からし
柿だったが、このさつまいもは、私が知っているさつまいもと、ちょい
と違う。あの見慣れた赤色をしていないのだ。
 でも、水で洗ったら、赤い色が出て来た。土を落としただけでは赤い
色に見えないとわかり、また、赤は赤でもおだやかな赤色なのが本来の
色だということもわかった。
 パソコンにしても何にしても、この世の中には、道理や構造を知らず
に使いこなしている物が多い。それでも、第一次産業の産物は人間の常
識として本物を知っている、と自分自身を信じていただけに、ショック。
 が、にんじんは機械で土を落とすのと同時に皮をはがれていると知っ
ている人はどのぐらいいるのだろう。
 まあ、とにかく、よって、きんぴらゴボウのにんじんは皮をむかない
ほうが栄養もあるしおいしいとテレビで解説していた。ゴボウも、皮の
部分に旨味が詰まっているので、よく洗うだけでいいし、酢水に浸けて
あく抜きする必要もないそうな。 
 けれども、ゴボウを前にすると、本当にそうだったかしら、と自信が
なくなってきた。なんせ、おしゃれな二層寒天を作るのに“コ”から始
まる白い物、と覚えていて、コーンスターチを買い、でも、甘いって言
ってたよな…と考え込んで、「あ、ココナッツミルクだった」と気づく
ぐらい記憶力がいい加減な私なのだ。ま、事前に気づけてよかったけど。
 と言うことで、ゴボウは皮も使い、しかし、にんじんは皮に見える外
側をむいて使った。天の邪鬼? にんじんは本当の皮じゃないところが
むきだしになっている、という点が、なんとなく気になってしまったの
だ。
 こういう私が真においしい野菜を食べるには、農家に買い出しに行く
しかないんだろうなあ。