福島原発の事故

 十五日に、東京のフランス人が出張を作って大阪に来た。
 怖いのは地震より福島原発の事故なんでしょ。
 久しぶりに再会できて嬉しかったけど。
 が、十七日の夕刻。
「今関空。これからフランスに帰る」
 そう言って、彼は二泊三日の出張手荷物のまま、日本から逃げ出した。
 フランスの親や身内がうるさく心配するからと言うけど、あまりにお
たおたしすぎじゃないの。
 でも、土曜日のたかじんの増刊番組で、武田邦彦教授が、NHKは福
島の風速・風向計が壊れて測定ができなくなったと報道したがさっさと
取り付ければいいだけとか、原子力安全・保安院の役人根性が今回の事
故を招いたとか、日本は技術はすごいが人の心がまずいと語るのを聞く
と、私は思い返した。
 炉心溶融(メルトダウン)という言葉は、アメリカの新聞には早い時
期から登場していたなあ。
 フランスのニュース番組では、福島からの風の流れを毎日のようにコ
ンピュータのシミュレーション画像で見せ、放射能はフランス領ポリネ
シアまでは届かないが、アメリカ西海岸やカナダは危ないかもと解説し
ていた。東京に関しては、一番危険なのは十五日という予報だった。
 放射能は風が運ぶ。
 なので、原発からの同心円状の距離だけで安心できるわけではない。
 しかし、渦中の日本人にはシミュレーション画像による科学的説明も
ないまま、ほうれん草、原乳、次には水に基準値を超える放射線量が検
出されたと、いきなり事実が告げられる。
 けど、飲んでも食べても支障はないって、漫才のボケと突っ込みじゃ
あるまいし、どう受け止めればいいのでしょう。
 原発周辺住民への室内待避の指示はいいとして、それに続く指示、対
応がない。
 各家庭の食料が尽きたら餓死もやむなしという姿勢ですか?
 東京のフランス大使館は、十七日までの段階で、ヨウ素剤を本国から
取り寄せ、取りに来たフランス人に渡せる体制を整えていたし、軍用機
を調達して、離陸の一時間前まですべての搭乗希望者を受け付けると発
表していた。
 これらの対応が適切だったかどうかは追って明らかになるだろうが、
後手に回るよりは良いという判断に基づくということらしいが、万一過
剰な危機管理に終わったとて、誰が批難するだろう。
 福島の原発事故はサ。
 起こって数日で、みんな思ったよ。これは廃炉だって。
 そうしたくなくて、事故を軽く見て、ここまでのっぴきならない状況
にしたのはお偉いさん方じゃないのかなあ。
 関西の市民の目にはそう映っている。