目が節穴

 バッグのショルダー紐に空いた穴は、長さ調節のため。
 そのぐらい知っているし、実際、私の身長に合わせて穴を変えたこと
もある。
 けど、肩掛けバッグとして店に出ていたら、ショルダー紐を目いっぱ
い伸ばしてたすき掛けにするという発想はできない私だった。
 しかし、一度学べば大丈夫。
 これからは、その学びをすべてに応用してゆけるだろう。
 そう思うと気分が高揚してくる。
 夏用のパンプスを買って、履きおろしの日。駅の高架下に靴修理のお
っちゃんを訪ねた。
 今どきの靴はプラスチックの靴底が大半だが、それだと滑りやすい。
賢い人は、靴を買ったらまず靴底を変える。
 そう教えてくれた人。
 半年以上行っていないけど、私のこと、覚えてくれているかなあ。
 私がおっちゃんを覚えているんだもの、おっちゃんだって、と無茶な
楽観を振りかざし、笑顔で、
「こんにちはァ〜」
「ああ」
 とおっちゃん。
 パンプスを受け取ると、おっちゃんは、かかとの革の上を横に渡る細
いベルトに目を留めた。
「それは、前に持ってくることもできるんやて」
 買う時そう説明され、試し履きしたら、ベルトが足の甲を押さえてく
れるので、人よりかかとが細い私は足さばきが安定する。それも、買う
決め手の一つになった。
 ただ、その履き方をするには毎回留め具を開け閉めせねばならず、留
め具がいつかバカになる、と思うと、とりあえず、その日はその履き方
をしなかった。
 と、おっちゃんが、
「穴の位置を変えたら、かかとを締められるんやなあ」
 と言い出すではないか。
 ふーむ、私には考えつかなかった発想である。
 おっちゃんが好意で留め具に油を塗ってくれ出すと、留め具は二箇所
あって、ベルトを完全に取り外せることに初めて気がつき、心の中で、
「知らなんだァ」
 またしても、見ていて、全然ちゃんと見ていなかった私・・・。
 めげるが、旅先で、友達とひと休みする所を探していて、
「あ、ミスド
 先に見つけるのは友達。
 指さされた方向を見ても、私は、
「え、どこ、どこ?」
 発見できない。
 私より日本語も土地勘も劣るフランス人の友が大阪に来て、目的地ま
で案内した時は、地図を見、不安ならば人に聞き、現地近くまで来ると、
「この道だって」
 彼が先に案内板を見つけ、最後の最後に彼にいいとこ取りをされた気
分になったものだった。
 同じ視野でも、同じ速さで同じ認識に至れない私。
 そうであるなら、私は、教えてやろうと思ってもらえる「可愛げ」を
磨くのが、正しい努力になるのかも。