六年目のカナリア

 レモンカナリア「ピィ」が我が家に来たのは2005年10月15日。
 なので、九月生まれってこと。
 この九月には満六歳。
 が、今年に入って、ピィは止まり木からバタバタ落ち始めた。
 つかむ力がなくなったのか、からだのバランスが取れないのか。
 なんにせよ、放っておいては命に関わる。
 すべての止まり木を取っ払い、食べ飲み眠る生活を地べたで完結でき
る状況にするも、数歩歩くと、からだがコテンと横倒し。
 落下した時、左足を痛めたらしい。
 虚しく空(くう)をかくばかりのピィを助け起こそうと手を入れると、
絞め殺されると勘違いしてか、必死でからだを立て直すが、家に誰もい
ない時にこけたら・・・?
 私はティッシュの空き箱を切って入れ、地べたに、ピィのからだの幅
以上の空間ができないようにした。これなら、倒れかけたら、何かが壁
となってピィのからだを支えてくれるだろう。
 徐々にピィは回復し、再び飛べるまでになった。
 ふーむ。鳥は、着地の衝撃に足が耐えられないと感じるあいだは、飛
ばないんだ。
 けど、鳴き声は消失したまま。
 喉をふるわせても声が出ない。
 もっとも、どんなに美声でも一日中聞かされるのはうるさいと母はぼ
やいていたから、それも良しかも。
 そして、ピィは〈ちょい手乗り〉になった。
 朝、鳥籠を掃除する際、指先を事務用腕カバーですっぽり覆って近づ
けると、乗り移ってくれるのだが、すぐには別の鳥籠に移さず、その状
態で、窓の外を、しばし、共に眺める。
 そこで閃いて、ティッシュの空箱の上の部分を切り取り、中に布を敷
き、そこにピィを入れて母の所に持っていくと、掃除が終わるまでじっ
としている。
 そんなピィを、母は自分のおなかに乗せてみた。
「あ、また糞をした」
 文句を言うが、翌朝連れて行くと、機嫌よく受け取る。
 元来、人との接触を嫌うカナリアなのに、この変身ぶり。
 我が家に、新しいカタチの幸せである。
 私は、ピィのくちばしのすぐ上の短い毛が黒く汚れると、鼻に水が入
らぬよう注意して洗った。落下事故の直後もそうなっていたので、死の
サインと見なし、きれいに洗って、死に神を退治するわけだ。
 ところが、九月十日の夜、風呂からあがったら、
「なんか下に落ちてるみたい・・・」
 と母。
 ピィが藁の巣の上で寝ているのを、鳥籠にかぶせた布の隙間から母が
確認したのは、つい一時間前だったのに。
 ピィは逝った。
 誰にも「その瞬間」を見せることなく。
 なんというプレゼント。
 ありがとね。
 心豊かな六年だったよ。ありがとう。