流れに乗る

 雨が静かに降っている。
 遠雷は不気味だが、各地の春の嵐と無縁で今日を締めくくれそうなの
は幸運であろう。
 今日は花見の予定だった。
 たまにちょこっと立ち話をする女性から、休日だとゆっくりお喋りで
きますねと言われて、ケータイ番号を交換。
「この歳で、ママ友とは違う人と知り合えて、嬉しいです」
 とメールが来た。
 彼女は五人の子持ち。
 今、家に残るのは末っ子の中学生のみだとか。
 去年は初孫が生まれたそうな。
 そんな年齢には見えない。
 ほっそりした体型。
 そそとした立ち居振る舞い。
 そして、自分自身を客観視できる知性。
 だから、私は彼女に興味を持った。
 散策が好き、という共通項がわかったので、彼女の提案で、今日、お
花見に行くことに決定。
 が、数日後に、日程変更してもらえないかとメールが来た。
 今年に入ってからずっと休みのなかったダンナが、ようやく休みを取
った、それが今日だというのだ。
 桜は、わざわざ見に行かなくても、そこかしこに美しく咲き誇ってく
れるし、今日という日を譲れない切実な理由は、ない。
 彼女が決めて彼女が変更して、と考えると振り回されている気になり
そうだが、たぶん、日を変えてよかったという結果になるんだろうな。
 根拠のない予感。
 すると、果たして。
 まず、ウォーキングシューズが壊れた。
 買いに行きたいが、今日に間に合うように買いに行く暇はない。
 次に、二年前にアレルギー科に通院して以来、「もう薬をやめてもい
いのではないですか」と毎回医者に談判したくなるぐらい、完治した感
のあったアレルギーが再発した。
 診察に行ったのは、そのわずか三日前。
 この時も、医者に薬の無意味さを訴えたら、
「薬を減らすにしても、この季節が終わってからの方が」
 と諭されたのだったが、突然、鼻は詰まるは、咳痰は出るは、胸のあ
たりにはもやもや違和感。
 朝晩二回服用する漢方薬を、自己判断で初診当初のように朝昼晩の三
回のむが、声がしゃがれてきた。
 この調子だと、薬は、次回予約の五月までもたない。
 急きょ電話で予約を入れ、診察してもらうも、相変わらず咳は止まら
ず、胸のあたりもすっきりしない。
 そして今日六日が来た。
 外出の約束が延期になっていて、よかったァ。
 私自身のせいでない日程変更は、やっぱり、一番私のためになったの
である。
 わけがわからなくても、問題ないなら、流れに乗る。
 すると、あとで、それが私にとって最善だったと知る。
 運命からのプレゼント。
 そういうことは、よくある。