薬より前に

 寝付きの悪い夜が続いた翌日、昼間に一時間ほどみっちり歩いたら、
その夜は一瞬で眠りに落ちた。
 動いてこそ「動物」。
 なのに、ちゃんと肉体を疲労させていなかったせいだったんだ。
 お笑いだなあ。
 が、私がもし何もせずに「ああ、不眠症になっちゃった」と考える道
を選んでいたら・・・。
 インターネットで不眠症のサイトを読みあさり、市販の薬を頼ったり、
病院に行ったりして、笑い話では済まなかったかも。
 実際、「睡眠障害」についてちらっと見てみたら、医療関係サイトで
すら、
「まずは昼間に、心地好くからだが疲れるぐらい、歩いたり、水泳した
りしてみてください」
 と、しっかり、はっきりとは書いてくれていない。
 そんなことは試し済み。それでも効果がない人達が「睡眠障害」を疑
う。そういうことか。
 でも、私が運動して「入眠困難」を回避できたのは、偶然みたいなも
の。
 当たり前すぎるからと、誰も言ってくれないと、知らないまま、とな
る人も結構いると思うんだけどな。
 医者まで辿り着いたら、ちゃんと言ってもらえる?
 どうだろう。
 だって、薬なしで完治させたら、医者は商売あがったり。
 そんなことを考えさせられるようになったのは、四コマ漫画付きの
『大笑い! 精神医学』という本を読んだからかも。
 今はやりの精神疾患の筆頭は「発達障害」で、そういう病気が存在す
ると人々は信じ切っているし、医者は薬物療法へと持ち込むが、すべて
精神疾患に薬漬け治療は不要、と説く医師の本だ。
 頷けないところもあった。
 友人の息子には、勉強ができないというレベルでは済まない「普通の
子と違う異質さ」がある。長期的に彼を見ていれば、誰の目にも明らか。
 ただ、人と違って「変なところ」は即病気なのか、と問われると、言
葉に詰まる。
 それに、内科医に、親を診察に来させたいが、来たがらない、と相談
すると、
「まあ、すぐに命に関わることではないし」
 本人が来たくなるのを待てばいい、と言われて、“命に関わる”医療
のみが待ったなしなのだと気づかされたこともあった。
 なんにせよ、なんでもかんでも医者、薬、と発想する前に、生活を見
直してみるのが先決かも。
 寝酒をやめたら、夜中の「中途覚醒」が止まるかも。
 サプリメントより、食事の質にこだわった方が効果の高さを実感でき
るかも。
 残念なのは、そういう当たり前で良心的なアドバイスが、何よりも最
優先の情報として耳に届いていると感じられないこと。
 情報過多の時代じゃなかったっけ。
 不思議だ。