嫌われてもいい

 その友とは、久しく年賀状だけの関係になっていた。
 が、何年かぶりで再会すると、たまに電話で話すようになった。
 ダンナの仕事の都合で引っ越していったのは残念だが、ようやく落ち
着いたといってかかってきた電話で、彼女は、この際、大半の知り合い
をアドレス帳から消去したと言い、これまで話題に出なかった家族の事
も打ち明けてくれた。
 頷く私。
 が、夜、眠れなかったが、睡眠薬を処方してもらって眠れるようにな
ったとサラッと言われると、サラッと聞き流せない。
 眠れないと訴える患者に機械的睡眠薬精神安定剤を処方するのが
ニホンの病院らしいが、それって目の前の症状を抑えるだけの対処療法。
しかも、薬を止めたいと思った途端、待ち受けるは茨の道。
 そのぐらいの知識はあるので、私は、然るべき所で自分の心と向き合
ってみたら、と仄めかした。
 だが、以前、娘への干渉が行きすぎて娘との関係が悪化している別の
友に同じように勧めたら、初診までに二年だか三年待ちだと言われたと
報告があったなあ。診てもらいたいのに診てもらえないと胸を張る友に、
ああ、そんなにも自分の心の奥に分け入るのが怖いんだ、と感じさせら
れたものだった。 
 睡眠薬のおかげで眠れるようになったと明るく述べた友も、意を決し
て解決済み事項として私に打ち明けたら意見され、不本意だったみたい。
 もしこれがメールなら、薬に頼る怖ろしさを説いたサイトを紹介した
だろうか、と自問すると、何度も読み返せる書き言葉でないから私は言
ってみる気になったのだった。
 粉ミルクの併用とおんぶを勧めた友が素直に聞き入れてくれたのは、
考え方を根本から変えたら、と迫られたわけではないからだろう。
 一方、要は心の持ちよう、というのが最大の解決法となる分野では、
人は、まずは、自分は正しくて、自分の考え方が悪いはずはない、とい
う前提に立つ。
 友が睡眠薬で解決したと言うなら、当面は彼女はそれでいいんだ、と
頷いていればよかった。
 が、それは私の本心ではないし、話せば、わかってくれるかもしれな
い。
 私は、長い目でみて、ほかにも対処法があると彼女に知ってほしかっ
た。
 彼女が薬では解決できないと感じるのはもっとずっと先のことかもし
れないのに、待てなかった私。それでは遅いと思ったのだ。
 そんな私を、私は抑えなかった。
 そのせいで、私もアドレス帳から消去されるなら、仕方ない。
 ここぞ、と言う時でもそう覚悟できないなら、真の友ではないと思っ
たのだ。