車内の男模様

 世のおばさん族はかしましくて厚かましい、かもしれないけれど、そ
の社交性は尊敬させられる。
 スーパーマーケットの中でぶつかりそうになっただけで、
「あ。ごめん」
 反射的に謝ってくれる。
 男達は、そのまま直進したらぶつかるとしても、絶対に道を譲らない。
よけるのはお前さんだろう、とばかりにずんずん突き進んでくる。
 そこから透けて見えるのは男女の差。
 女の人は社会の中で弱者だから、頭を低くして生きていれば安全、と
いう処世術になるのではないか。男は、会社や取引先の相手に対してな
ら、たぶんとても愛想良く振る舞う。が、見知らぬ相手だと、人を人と
見なしていないような態度に一変。人への態度に上下関係、損得感情が
働く気がする。
 先日、昼間に始発駅で電車の出発を待っていたら、おじさんが連結部
のドアを開けて入ってきて、日よけの鎧戸(よろいど)を一つ一つ降ろ
し始めた。
 車掌でもないのにその行為。
 いきなり自分の前で立ち止まり、鎧戸に手を伸ばす彼に、人々は戸惑
いの眼差し。
 おじさんは次の車輌でも同じことをし、それが終わって戻ってくると、
閑散とした座席に座るでもなく、ドアの脇に立った。
 私は、彼の心に去来する思いを想像してみた。
 もう日よけがいらない太陽の位置になったのだから外の風景が見える
べきだと、正義心から実力行使した?
 実力行使で思い出した。
 今、電車では、隣の人との間にたっぷり間隔を空けて座る人が多い。
さすがに朝はそういうことはないが、夜、疲れて帰る時刻にはそうなる。
 知らない人と体を接触したくない人が増えたのかも。
 夜でもそうなら、昼は当然。
 そんな昼間の時間帯に電車に乗り、座席の端に座った。
 寝こけていたら、隣の女性がもそもそ動いて、彼女の左側に人が座っ
たんだな。でも、なんかとても窮屈。五人が座れる場合もあるだろうけ
ど、コートで着ぶくれするこの季節に五人はきつい。
 昔、わずかな隙間におばちゃんが大きなお尻をねじ込んで、座ってい
た人を弾き出す漫画があったが、これは男だ。
 心の中で溜息をつき、また目を閉じた。
 と、その「おっさん」が隣の女性を越えて手を伸ばし、私の腕を強く
突いた。
 突っついたんですぜ。
 端っこの私にこれ以上どうしろというのか。
 が、そのおっさんはぬかした。 
「普通、人が座ったら詰めるもんやろ」
 私は、
「さわらんといて。きたならしい」
 と言い返したが、久しぶりにむかむか。
 ところが、後日、再度こいつに出くわすことになるのであった。