昼食抜き特訓?

 私は、この世に野球がなくても生きられる。
 でも、イチローが哲学的とも言える言葉で話しているのを見聞きする
と、雑誌ならちゃんと読むし、テレビならちゃんと観る。
 だから、私に完璧に無縁なスポーツ、というわけでもない。
 そんな私のアンテナに久しぶりにひかかったのは、ヤフーニュースに
出たスポイニチアネックスの二月十二日配信の大見出しだった。
「オリ福良監督 早くも五度目怒ッカン! ミス連発三選手に昼食抜き
特訓」
 記事を読む前から、私は強い拒絶反応。
 要は、しごきじゃん。いじめじゃん。違うんかい。
 野球のミスを防ぐ特訓に、昼食を抜いた方が格段に効果的だと検証さ
れたのであれば話は別だが、単に、たるんだ精神に活を入れる、という
根性論が理由なら、嫌な感じだし、監督が「自分はそうやって伸びたか
らお前らも」という理屈で「昼食抜き特訓」を課し、周りも止めなかっ
たとしたら、こういうことが未だにまかり通るニホンの野球界はあまり
に古くさいことになるが、どれどれ・・・。
 案の定、監督自身、現役時代に昼食抜きの練習を経験した、という事
実を、おかげで通算二百二十四犠打に結びついた、という因果関係でと
らえていると判明。 
 プロの選手は普段からしっかり食べていて、昼食抜きで三時間十分個
人練習をさせられても問題はなかろう。「肘も手も痛くなってくるが、
数をこなせば絶対うまくなる」という監督の信念で、からだを壊された
ら、そういう弱者であったと排除されれば済むのだろう。
 替えはいくらでもいる。
 でもなあ。
 頂点のプロの世界の指導方法が、かくも非科学的なままだと公にする
のは、これが正解、というメッセージを裾野のアマチュアの世界にまで
発信することになる。プロになりたくてなれなかったアマチュア指導者
達の格好の後押しになりそうで、それを私は憂う。
 それにしても、新聞の記事は、たとえば、その記事の大半を青の立場
に与(くみ)する姿勢で書いても、最後の最後に、白の立場のこういう
意見もある、と言及するのが普通で、そうやって客観的、中立的立場だ
ということにするとは、なんとも狡猾だ、と常々感じさせられていたが、
今回の記事には、
「非科学的なしごきだという批判もあるだろうが」
 のようなひと言はなし。
 それがスポーツ新聞だとしたら、それはそれで考えさせられる。
 なんにせよ、私は野球はなくても生きられる、という思いはますます
強まった。
 理不尽なことに耐えるのがプロではあるまい。