情報が私を見つけてくれる

 たとえば外出中、急にマウンテンバイク赤い靴が目に入るようになるの
は、それを買おうと思ったりして気になり始めたせいの当然である。
 が、ふと見たテレビや本や雑誌で、自分に必要な情報に、それも何度も
出くわすのは、素直に驚いていいのではないか。
 八月に熊野古道に行く前がそうだった。
 テレビをつけたら、熊野の旅番組。
 おかげで那智黒石は割ったら薄い板状に割れる特質があると知ってから
現地に行くことになり、那智大社近くの店屋の軒先の箱の中に、無造作に
石の破片が放り込まれて百円の値が付いているのを見つけると、歓喜して
一つ買った。
 大斎原(おおゆのはら)のルポも、出発前に偶然テレビで見た。
 紀伊勝浦探訪の番組も然り。これは、マグロ一匹を乗せた四輪カートを
引っ張って路上を歩く人にタレントが声をかけるところから始まったが、
あらかじめそういう段取りが決まっていたのは見え見え。その人は、近く
の名店でマグロ料理の店を営んでいる料理長で、店のカウンターにタレン
ト二人を座らせると、目の前でマグロを解体して新鮮な刺身を提供。最後
に、骨に薄くマグロの身が張り付いているのを、
「一匹からそれほど取れない稀少部位だ」
 と説明して、スプーンで掻き取り始めた。
 さて、私が勝浦のホテルに泊まった夜である。
 料理長がマグロを解体し、切り身は次々、皿に盛って宿泊客に振る舞わ
る。私が何皿か取ってテーブル席で堪能してから再度カウンターに戻ると、
先ほどまでの人だかりはどこへやら。が、まさにその時、骨の周りの稀少
な中落ちがこそげられているところだった。小躍りしてそれを入手したの
は、もちろんである。
 そして先日。
 これまた、ふとテレビをつけたら、大斎原で出会ってしばし立ち話した
人が、テレビ局の取材の人から「ゴーラ」がある場所を知っているかと問
われ、教えている。本当の知り合いではないが知っている人なので、妙な
気分。でも、私がその人と話した時、ゴーラの話は出ず、私は熊野名産の
日本ミツバチの蜂蜜を購入するという発想なきまま帰ってきた。
 残念。
 いや、今回は買う必要はない、ということだったのだろう。だから、こ
の情報を知るのは旅のあとになったんだ。
 確かに、徒歩とバス移動での熊野古道歩きのスケジュールに、買い物に
当てられる余分な時間はなかった。
 それにしても、必要な情報が勝手に向こうから降ってきてくれるのは、
楽だし、ありがたい。
 干し野菜もそうだ。