ひじきの季節

 食べ物は、旬が一番。
 でも、タケノコを一年に一度は食べたいものだと思いつつ、久しく実
現することがなかったのは、昔、父が仕事でタケノコの産地を通りかか
ると、朝堀りのタケノコを大量に買って帰って来てくれ、本当の美味し
さを舌が覚えてしまったから。
 スーパーに並ぶ頃には、タケノコは鮮度が落ちている。
 だったら、潔く諦めよう。
 ところが、今年、知り合いが、身内の竹藪で朝堀りしたというのをア
ク抜きまでして、分けてくれた。
 母が「わかめがない」と言うので、スーパーに行き、鮮魚売り場で生
わかめを発見。
 恥ずかしながら、生のわかめの存在を私がはっきり認識したのは、こ
の時が初めてだったのではないか。
 でも、認識したからには、手が伸びる。
 一応、乾燥わかめも買った。母の指定だったのだ。
 案の定、母は生わかめに良い顔をしない。が、どちらを使ってくれて
もいい、と決定権を委ねたら、生を選んでくれた。
 久しぶりの若竹煮は、美味しかったあ。
 それにしても、なんで私は、わかめもひじきも乾物が唯一だと思い込
んでいたんだろ。
 旬の季節であっても、テレビも料理の本も「乾物」しか対象にしない
んだもの、なんて、ひとのせいにしては駄目よね。
 とにかく、気が付いたからには、生の新鮮なのを使って料理したい。
 まずは定番の「ひじきの炊いたん」。
 お揚げさんは油っぽいか、と洋人参しか入れなかったら、母が「お揚
げさんなしのひじきなんて、食べられない」とのたまう。
 で、お揚げさん入りの王道を作ったら、にもかかわらず、母はまたも
や箸を付けない。
 きんぴらごぼうは、ピーラーで薄切りにし、味付けは日本酒と醤油だ
けでいい、とテレビで学び、作ったら、なるほど美味しかったが、これ
も母は食べずに却下。
 こういう仕打ちは、めげるのよねえ。
 でも、ひじきやごぼうを使った母の手料理を食べた記憶がないので、
うちの母は、単にその手の料理が好きじゃないのかも。
 なんか、今どきの若者みたい。
 と決め付けては、若者に失礼か。
 実際、英語の家庭教師先の小学生達が、いつも「おなかが空いた〜」
と言っているので、おやつ代わりに作って行ったら、ひじきは瞬く間に
完食。
 気を良くして、きんぴらゴボウを持って行ったら、これも「うわっ。
美味しい」。
「先生って、料理、上手なん?」
 本当はね。君達は、市販のお菓子の大量摂取で、きっと味覚が狂って
いる、と思っていたんだ。
 ごめん。