湯シャン

 私は、年に二回ぐらいしかヘアサロンに行かない。
 高校時代までは直毛だったが、その後、本性が目覚めたのか、癖毛にな
った。
 髪質は猫毛に。
 癖毛で猫毛だと、かなり厄介。
 猫毛ゆえ、頭のてっぺんの髪の毛は、しょっちゅう静電気を帯びたみた
いに逆立つし、癖毛ゆえ、雨の日は、髪がぺしゃんとなる代わりに大きく
広がる。
 だから髪の毛が多いと錯覚されるが、実はずいぶん減った。
 シャンプーのたびに抜けるのだ。
 そんな中、「湯シャン」を知った。
 シャンプーなどを使わず、お湯で髪の毛を洗うだけだという。
 そう言えば、昔の時代を描いた海外ドラマで、女性が長い髪を、沼の水
で洗うだけの場面があった。太古の時代、人類は、まずは水で洗ったのだ
ろう。湯を使い始めた時はかなり革新的だったかも。
 頭皮を十分マッサージし、髪の毛を梳き、なるべく汚れを落としてから、
シャワーで髪の毛を洗った。
 その初めての日。
 髪の毛がほとんど抜けない。
 そうか。シャンプーのせいで髪の毛がごそっ、ごそっと抜けていたのか。
 いつか髪の毛がなくなるのでは、と不安に駆られていたのが嘘のよう。
 洗った髪をドライヤーで乾かす。
 それでも髪がぱさつかないのは、髪の油分で一本一本が潤うからかもし
れない。
 シャンプーなしで臭くないのか、という命題は、友達に判断を仰ぎたい
が、新型コロナの外出自粛が終わったとは言え、まだ誰とも会えていない。
 でも、私の髪質には湯シャンが合っている気がする。
 外側の髪の毛が好き勝手にもわもわ浮いて、ぼやけた輪郭をつくるよう
なことはなくなったし。
 それでも、髪の毛の重みで髪が収まるようにする方がいいだろうから、
引き続きロングヘア。
 よって、今後も、ヘアサロンに行くのは年に二回程度になるだろう。
 今はアレルギーを抑える漢方薬のおかげで、店に入った途端、充満する
ヘアケア製品の匂いに刺激されて、咳が止まらなくなることはなくなった
が、単に薬のおかげにすぎないのだ。
 でも、そろそろ髪を整えてもらいたい。
 行きつけのヘアサロンは、相変わらず休業中という張り紙。
 たかが裾を揃えてもらうだけでも、馴染みの店で切ってもらいたい。
 まさか、このまま閉店突入、なんて、「づぼらや」のようなことにはな
らないよね。
 夕方、突然友から連絡があり、少しの時間だが、お茶してきた。
 話すことが多すぎて、今日は私の髪の匂いを嗅いでもらうまでには至ら
なかった。