孤独な趣味

 今はもっと取捨選択するけど、古い洋画が好き。
 テレビで放映されるのを観るので、アメリカ映画が多くなる。
 初め偶然観た時はモノクロ映画で、その地味な色彩を目が受け付けず消し
たが、次の時は、そういう理由で食わず嫌いになるのは損かもと最後まで観
た。よっぽど暇だったみたい。が、おかげで白黒も捨てた物じゃないとわか
った。
 ただ、ひとの国の、それも過去の話だと、私によくわからない物が出てく
る。
 たとえば、小学校の校庭にある鉄棒の一番背丈が低いのを全部木で作った
ように見える物。カウボーイの時代にはホテルや男達が一杯引っかける店の
前に必ずある。
 馬からおりた男達が、その木に向かって、馬の手綱の、長く伸ばすと一本
の紐のようになるのを軽く投げると、手綱はくるっと木に巻き付き、馬はそ
の場におとなしく整列する。
 ほおっ。
 自転車やバイクの整列駐車みたいなことが生き物相手にできていたんだ。
 男はみな帽子を被るのが当たり前だった時代に、彼らが帽子を脱がないま
でも、手でちょっと帽子を持ち上げるのは、礼を表わすべき相手の前でのマ
ナーなのだと学ぶ。
 砂漠のらくだはのんびり歩くことしかできないと思っていたら、『アラビ
アのロレンス』で馬かと見まごう速さで疾走するのを見て、私の無知は修正
された。
 もっとも、こういうのは、その時代の映画をひと通り観れば、目新しい発
見はなくなる。
 すると、やっぱり話の筋と出演者の名演技が重要になる。
 そうやって、私はドリス・デイの底抜けの明るさと歌のうまさの虜になっ
たが、『カラミティ・ジェーン』が好きと言ったところで、今の時代の誰に
共感してもらえよう。
 先日再放送された『裏窓』はヒッチコックの一九五四年作で、緊張感のあ
る話がいいし、主演のグレース・ケリーの美貌と華麗な服についても滔々と
語りたいが、やめた方がいいと思いとどまることになる。
 こういうのを趣味と言うんだろうな。
 一般的でない趣味は、仲間が見つからない。
 先日、新聞に、年配の男性が、自分が持っている昔の名作ビデオを処分す
るのは忍びなくて、誰かもらってくれたら、と嘆きの投稿をしたのを読んで、
私は思わず、
「ぜひほしいです」
 と名乗り出たくなった。
 ところで、『スティング』の筋と主人公ポール・ニューマン
『マンマ・ミーア』の全編。
 これらが好きな私、というのを分析すると、私は、日々、少し心が抑圧さ
れているのかもしれない。