『陳情令』(ちんじょうれい)

 ヨーロッパの博物館で彫刻コーナーに入ってすぐ、窓際に並んだ首から上
の首像を見始めたが、さして感動させられないのに延々と続くので、足早に
通り過ぎ、メインの会場に入った途端、心が打ち震えた。そこに展示されて
いる彫刻は全然違う。
 入り口のは、ここに来た時感動が極まるよう、序の口レベルのが展示され
ていたんだ。
 見る目を持たない分野のことはわからない、と謙遜しなくても、素人は、
最高の物には素直に圧倒され、そうとわかるということなのだろう。
 中でもわかりやすいのは映画やドラマだと思う。
 有名人が主役に抜擢されても、学芸会を見せられているようで見続けられ
ない痛ましい作品もある。
 日本に入ってくる海外ドラマは、厳選されるからか、そういうのはほとん
どない。
 それでも、トルコの『新・オスマン帝国外伝~影の女帝キョセム』シーズ
ン一で女帝の若い頃を演じた女優は見ていられなかった。本国でもそういう
評価だったらしく、シーズン二では別の女優に替えられた。
 今、私は中国の『陳情令』にはまっている。
 中国物はやたらと人が空を飛ぶ。谷に飛び降りても助かる。剣でやり合う
場面では着物の長い袖が弧を描いて優美な踊りだ。
 そんな現実離れを受け容れられたら見続けられるが、そうさせてくれるの
は筋書きもあるが、やはり役者の演技である。
『陳情令』では、若い役の男性陣はみな髭跡もないつるんとした美肌で、ア
ジアではそういうのが男性美として好まれるのかと思うのは、西洋では髭も
じゃで腕も毛深い男達が主役を張るからだ。
 だが、どちらにせよ、ハンサムを突き抜けた美形に生まれ、演技力が秀逸
なら、他の文化圏の者達をも虜にするのだろう。
 そんな稀なるトップレベルを排出するには、人口が多い方が有利だ。
 さて、『陳情令』は中国でも大ヒットしたらしく、インターネットには主
役のシャオ・ジャンとワン・イーボの動画が多数見つかる。
 このドラマの台詞で初級の中国語を学ばせてくれる動画を作っている人が、
日本語訳ではニュアンスが伝えきれていないところを説明してくれているの
があり、いいなあと思った。
 でも、私は今さら勉強する気はないので、ドラマのシーンはしっかり見て、
説明は早送りにするが、メイキング映像や出番待ちの主役二人の私的な会話
の動画に日本語の文字スーパー付きのは見当たらなくて、歯痒い。
 たまに英語の字幕付きので、消化不良を解消する。