悪い予感

 電車に座るとペットボトルのお茶を取り出した。
 ところが、力を込めて回すが、蓋が開かない。
 日曜の朝の車内は閑散としていて、向かいの長いシートに若い女性が一人
きり。
 彼女はスマホを見ているけれど、時折視線を向けてくる。私が繰り返す動
作が気になるのだろう。
 よっぽど開けてくれませんかと頼みたくなったが、孤独に頑張り、観念し
て、蓋を観察。
 すると、私の知っているペットボトルはキャップ本体とそれを受ける下の
リングのあいだに隙間はあるが別個の物がくっついた時の必然である。
 一方、目の前のはキャップとリングを繋ぐ縦のブリッジが三ミリぐらい可
視できる。しかも、それが五ミリぐらいの間隔で一周。この構造だと、力が
分散して、普通の力では開けられないのではないか。
 だって、私は、握力が左は二十八、右は三十二kg。医者から優秀だと褒
められた。
 このブリッジが切れたらいいんだな。
 しかし、道具がない。
 私の爪は掌の側から見たら見えないぐらい短くて、カッターナイフ代わり
にならない。
 それでも、爪を当てたら、プチプチ切れていった。
 おかげで飲めたが、後日、ペットボトルを見て回ったら、こういう蓋は見
当たらなかった。
 さて、私はパーティに向かっていた。
 百五十人以上集まるけれど、気心の知れた者達が再会する場だ。
 それでも、私に爽やかな印象を持ってもらいたいと思うと、服装と化粧に
気をつけることになる。
 普段にはないことである。
 すると、いくつか起こりそうな困ったことが頭に浮かんだ。
 ただ、ペットボトルのことは想像になかったので、この災難が、私の頭の
中の想像すべてと引き換えに現実になってくれたのかもしれない。
 私は、この日のために白いブラウスを買ったのだった。
 ふわっと緩いシルエットで、後ろ身頃だけ裾が長く、今の流行だが、奇抜
さはない。
 しかし、左右の脇から長い紐が垂れ下がるデザインで、トイレに行った時、
紐が便器の中に落ちて濡れないかなあ。
 白い色は、食べた物をこぼしたりしないよう特に注意が必要だ。
 化粧に関しては、リップライナーで口紅の縁取りをしておくと口紅がはげ
ても目立ちにくいと店員に言われ、生まれて初めて買ったが、トイレで化粧
直しした時に化粧台の上に置き忘れないようにしないといけない。
 これらはすべて現実になった。
 予感がしていたのなら、気をつければいいだけなのに。
 我が愚かしさには呆れる。