時を止められるなら、何歳?

 知り合いに占い結果として、「中年期はうんぬんかんぬん」と告げる
と、中年期とはいつぞやと問い返され、三十過ぎと答えたら、いたくシ
ョックを受けられた。
 平均寿命が延びようが、食糧事情がよくなり、いつまでも張りのある
お肌を保てる時代になろうが、中年は中年。三十過ぎても若いと言われ
たら憤慨するぐらいの気概は持てないものか。まあ、私が言わんとした
精神性を外見と取り違えてしまうところがすでに未熟というか、中年と
いう言葉への嫌悪で心が満ち満ちているというか。
 内科の病院で久しぶりにレントゲンを撮り、以前のと比べつつ、医者
に「順当に歳を取っていますね」と言われた私は、ふむふむ、内臓から
もそれがわかるのだ、と素朴に感心したものだった。
 もっとも、私の場合は、抵抗し、抵抗し続けた末に真実を受け入れる
方がダメージが強く、とても耐えられないと思えばこそ、あっさり降参
してしまう傾向にあるのだが。
 昼休みに、一人、目の良い女性がいて、視力の話になった。すると、
年配の女性が「でも、老眼になるのも早いのよね。そのうち、私みたい
になるから」と言ったが、その口調のおどろおどろしかったこと。
 やっぱり嫉妬なのかなあ。
 どんなに頑張って若さを保っていても、本当に若い人には太刀打ちで
きない。でも、目の前の彼女だって日々刻々と自分のあとを追っている
と思うと溜飲が下がる。そんなところか。
 私は、この季節になると出勤の手荷物が重たくなる。弁当および飲料
ポットを保温性のものに切り替えるためだ。しかも、弁当は、ぎゅうぎ
ゅう詰めにして「私、こんなに小食なんです」と見せかけるなんて、と
んでもない。むしろ、すかすかにしてお皿に軽くよそっている風情こそ
良しとす。よって男性用の大容量だ。
 去年買ったのが使えないわけではないのだけれど、ちょうど会員対象
の割引デーがあったので、もう少し軽い小振りのを買い求めた。
 理由を聞いて、母が舌なめずりする表情で言った。「あんたも、歳、
取ってきたんやわ」。
 あ〜あ。