姉はせつない

 保育園で、1歳から5歳児に英語を教えている。週一回ではそれほど
効果は期待できないだろうと思っていたら、子供達の吸収力はすごい。
参加するでもなく、うろちょろしていた1歳児が、1歳半を過ぎると、
日本語になりきれないむじゅむじゅ言葉を喋っている途中なのに、ABC
の歌の時、「ABCの口の形をした!」と保育士の先生方を驚かせた。
 子供達の前で、私は“英語しか話せない人”を貫いている。私は英語、
子供達は日本語。それで会話が通じるのは、子供達が雰囲気で私の言わ
んとしていることを察しているのだろう。どうしてもとんちんかんな時
は先生方の日本語の手助けが出る。
 そういう環境が出来上がっているところに、ぽっと新入りで入ってく
ると、どうなるか。三歳という年齢が境界線になる。三歳を過ぎると、
皆一様に、私という得体の知れない人間を“値踏み”する。
 今回から参加の三歳と二歳の姉妹の、姉が特にそうだった。
 二人で向き合って座り、握った手を引いたり押したりする『Row Row
Row Your Boat』は英語がわからなくても楽しめるのに、二人は部屋の
隅で身を寄せ合っている。しばらくして私が誘いに近づくと、姉が、さ
っと両手で妹をかばうようにした。私を見る目の警戒心に満ちているこ
と。こんなに小さいのになあ、と感心するやら、溜め息が出るやら。
 池に見立てたフラフープの中に色とりどりの魚を置き、割り箸製の釣
り竿で私が言う色の魚を釣らせるゲームに、運命を託した(ちょっと大
げさ)。
 まず、二歳の妹が、好奇心に打ち勝てず、するすると私の横に来て、
自分も釣りたいと意思表示を見せた。妹の思わぬ行動に引きずられるよ
うにやってきた姉は、一周目は首を横に振ったが、二周目が回ってくる
と、釣り竿を受け取った。
 そして、レッスン終了後。
 二歳の妹が、私に甘えてぶつかってきたので、抱っこし、くすぐった
りしたら、もう完璧に打ち解けた仲である。
 それを遠くから見ている姉。
 妹の順応性というか変わり身の早さが、羨ましくて、許せないんだろ
うなあ。でも、真似するには、一歳分、歳を取りすぎている。
 自分で乗り越えるしかないハードル。
 ゆっくりでいいから、気を許せるようになってね。待ってるよ。