結婚前に離婚を考える

同僚が転職を考えている。でも、もう三十を過ぎていて、母親からは
「仕事より結婚でしょ」と言われているという。その話は前にも聞いた。
ところが、その時から今日までのあいだに、彼女の気持ちは変わらなか
ったが、私の意見が百八十度変わった。
 そうなったのは、ここに来て、突然、離婚した女性達を知る機会がで
きたせいだ。考えてみると、幸か不幸か、これまで、我が人生において、
離婚した知り合いは皆無だった。もちろん、離婚しないから幸せと言え
ないことぐらい、わかっている。でも、離婚した後の生活というものを
実際に知る機会がなかったという点において、頭の中だけの想像だった
なあ、と思うところはある。
 彼女達は、なぜか、三人、あるいは二人の子供を連れて家を出ている。
一家の大黒柱として家計を支えなくてはならないので、たぶん、専業主
婦の時のようには子供に目が行き届かず、それ自体は、却って、よい結
果を出し、子供達は、子供らしい伸びやかさに溢れている。ただ、働く
おかあさんは大変だなあ、と、どうしても思ってしまう。子供がそれだ
けいるということは、まさか離婚することになるとは思っていなかった
人達なのだろう。そのまま結婚生活が続いていれば、恵まれた奥さんで
いられた。ところが、その道を捨てた時、結婚あるいは出産のために社
会からリタイアしたことがマイナスとなって働き、一気に経済的弱者に
転落するのが今の社会だ。
 どんなに惚れ合って結婚しても、結婚は生活だから、どうなるかわか
らない。ならば、最悪のことを想定しない生き方は、それだけリスクが
高まる。フランスなどで、結婚前に、万一離婚した場合の財産分与の取
り決めを行なったり、日本でも、家賃や光熱費を折半する夫婦の話を聞
くと、そこまでしなくても、と感じる私だったが、甘かったなあ、と思
う。幼い子供を預けて働くことも、別に、子供にとって、それほど可哀
想ではない。フルタイムで働くと、親子の時間が少なくなるのは確かだ
が、子供達の記憶力はすごいのだ。一週間に一度、一時間あまり英語に
接するだけでも、確実に脳に刻み込んでゆく保育園の子供達が、そう教
えてくれている。
 となると、同僚のほうが私なんかよりよっぽど地に足ついた考えだっ
たことになる。なので、「そうよ。まずは仕事よ」と私は大賛成。
 でも、恋愛は、しないより、したほうがいいんじゃない。それが、即、
結婚に結びつくとは限らないんだから。