靴には悩まされます

 夏のバーゲンのまっさいちゅうだが、そのスカートは、バーゲン直前
に、大型スーパー内のブランドショップで購入した。
 去年物のスカートの大幅値下げに出くわしたら、一枚あってもいいか
なと思える値段だったのだ。
 有名デザイナーの廉価版ブランドの店だが、専属の店員はかなり年配
で、へえ、こういう人も接客する時代になったのか、と軽い驚き。
 これも着てみてください、とタンクトップとカーディガンも手渡され、
店員がお勧めのトータルファッションに身を包んだ私自身を見て、「う
ーん・・・」と唸ったら、
「その靴が駄目なのよ」
 そうきっぱり断言して許されるところが年の功の威力だったのね。
 まあ、確かに、店のサンダルに履き替えたら、途端にエレガンスで、
歩き疲れないことを最低条件に選ぶ靴だと、どうしてもスカートと相性
が悪くなるらしい。
 ならば、私のストライクゾーンはすこぶる狭いけど、そこにおさまる
サンダルをバーゲンで探し出しましょ、と固く決意して、デパートへ。
 三店回って見つからなかったのが、家の近くのデパートで見つかり、
灯台もと暗しとはよく言ったものだが、きのうは、そのエナメルサンダ
ルで出かけた。
 六時間ほどで帰ってきたのに、靴を脱いだら、足がだるい。
 姫路城を訪れた時、石段や階段が結構多くて、若いうちしか住めなか
ったのではないかと想像されたのは、すれ違う高齢の観光客を見たせい
だが、一緒に行ったフランス人と、フランス式にたっぷり時間を取り、
ひとつの漏れもなく見て回る終わり近くに、突然、彼女がはたと立ち止
まった。私が石段の下の小さい広場で、説明書きを読んで戻ってくるま
でじっとそのまま。あの時、彼女は、突然、自力で歩ける歩数がもうそ
んなに残されていないことを感得したのだろう。
「歩くのが結構きついね」と呟く観光客の声も聞えてきたから、彼女の
靴に特に問題があったとは考えられない。
 パンプスは、アスファルトの衝撃を完全に吸収するには限界がある。
 なのに、デザインを優先すると、自発的纏足(てんそく)状態がさら
に加速する。
 その場合の問題は、そういう生活の果てに、足腰の弱い老女となり、
その時になって愕然とすることだろうか。
 一方では、私のように、長生きしそうにない予感を抱きつつ、歩きや
すい靴にこだわらずにいられない人間もいる。
 どっちがいいのかなあ。
 それを見極めるためにも、長生きしようと努力するべきかしらん。