説得されると、感情は

 昔、衝動買いしたアーミーグリーンの布製バッグは、普段使いには大
きすぎて長年放ってあったが、保育園に英語を教えに行くには、教材を
入れるのにもってこいの大きさ。ようやく日の目を見ることになったの
はいいけれど、今度は酷使しすぎて、取っ手の革がボロボロ。
 デパートのスポーツコーナーを通りかかったら、綺麗なピンク色のナ
イロン・バッグが目に飛び込んできた。
 軽いし、両サイドに、片方がチャック、片方がマグネット留めの収納
箇所があり、使い勝手も抜群。A4サイズが横に寝た格好で収まる底の
マチ幅は若干大きすぎるきらいはあるが、スポーツバッグの域を超えた
ファッション性に心を奪われる。
 ただ、透明感のあるパステル・ピンクは気後れしそうで、訊ねると、
グレーの在庫があるとか。
 光沢のある空色がかったグレーに、小さな白で散りばめられたブラン
ド・ロゴの柄模様が浮き立って、大人っぽい。
 悩んで、グレーにした。
 みんなから「うわー、可愛い」と言ってもらったが、私は、すかさず、
ピンクもあったけど、どう思う、と聞かずにいられないし、こっちの方
がいいと思うと言われても、迷いが消えない。
 今は、小学生の間でも、ピンクは甘すぎるからと空色の方が人気なの
に、ピンクに惹かれるのは、服でもデジカメでもなんでもパステル・ピ
ンクのフランス人の友に感化されてしまったのかも。
 だけど、これを持つ日はTシャツにジーパンやパンツだとしたら、ト
ータルファッションよりも、素直に一番心惹かれた色にしてもよかった
んじゃないだろうか。
 買ってからも、見るたびに、もう一つの色と悩んだことが思い出され、
しかも、未だに当時の決断に自信が持てない物達が、私には、他にもい
くつかある。
 選ぶ際、常識や自分らしさだと自分自身が信じていることなど、理屈
を総動員してくる自分に、自分自身が説得された。
 理性は納得したが、感情は譲歩させられた、という思いが強いと、気
持ちが吹っ切れないままになるのではないか。
 自分で自分を説得する場合ですらそうなら、他人を説得するのはもっ
と難しくても当然だろう。
「いっそ、ピンクも買っておいたら」
 友のアドバイスに、そうだ、もう一度見れば、踏ん切りがつくかも、
と思い立つが、台風四号の接近で、わざわざ出かけたくないこの週末。
 行った時、売り切れていたら、諦めがついてよさそうだが、実際には
・・・一層、悔やみそうだなあ。