大人を唸らせよ

 デジタルテレビの、小さいボタンがいっぱいのリモコンは、高齢者に
は使いづらかろう、とまでは想像できたが、実は認知症の人達にははっ
きり大問題で、スウェーデンでは、そういう人達向けに、本当に必要な
機能だけを登録できる単行本ぐらいの箱形装置が実在しているそうな。
 さすが先進国。
 ならば、日本は真似から始めればいいわけで、そういうのはもっとも
得意とする日本人。はるか彼方に思えた未来が、ぐんと身近に感じられ
てきた。
 認知症は、年齢がいくほど発症する確率が高まる。
 2015年に患者数は二百五十万人に達する試算だとか。
 そういう日本に、まずはスウェーデン式マッサージを広めようとして
いるスウェーデン人がいて、日本に骨を埋めるつもりの自分が歳をとっ
た時、安心して暮らせる日本にしたい、とテレビで志を語るのを聞き、
私は感激。
 感謝もある。
 だって、私は独身。
 夫や子供や孫の世話になれる可能性がゼロの人間にとって、未来とは、
とってもシンプルに、自分一人きりの未来、と同義語となる。
 が、今の日本では、別に独身でなくても、認知症になり、にもかかわ
らず一人で快適に暮らしている、という素敵なモデルを見たことがない。
歳を取ったら終わりなんだ、というメッセージしか受け取れていないこ
とになるのだが、彼のような奇特な人のおかげで、日本でも、少々の認
知症なら自立して生活できる社会が実現するとしたら、大いなる希望で
はないか。
 そういう社会は、老人自身は自分の尊厳が護られるし、若者世代は、
大多数が介護の仕事に手を取られるようなことにもならず、今より豊か
高齢化社会となるであろう。
 ところで、小説や新聞を読む人は、認知症発症率が0.65倍に下がると
いうアメリカの研究結果を見たけれど、小説じゃないと駄目なんだろう
か。
 長く、本当に長く、小説こそ本の頂点、という偏向した思いで生きて
きた私であるけれど、近頃のあまりのくだらなさに、すっかり背を向け
た状態になっているせいだ。
 だが、爆笑問題太田光が唾を飛ばす真剣さで今の小説のつまらなさ
に激高する様を見て、案外、夜明けは近いかも、という気もしてきた。
 これほどまでに、時代に不満が高まっているなら、その膨大なるエネ
ルギーが、新たな書き手を生み出してくれそうではないか。
 大人の魂に深く重く響く小説よ、出でよ。
 大人になるとね。認知症予防だとしても、文の芸、文の魂に、適当な
レベルで感動した振りはできないのだよ。