冬は、痒い

 ウールのタートルネックは首まわりをしっかり暖めてくれるので、冬
はこれが私の定番。
 問題は、季節が巡って何ヶ月ぶりかで袖を通すと、首のまわりがシカ
シカすること。
 それまで無防備だった首が、急に服にまとわりつかれる感触に慣れる
までのしばしの抵抗と言うことだろうか。
 が、ウールの肌着が触れる所がそこはかとなく痒くなったりもするゾ。
 冬は、外気温が下がると皮脂と汗の分泌が少なくなり、かつ、空気が
乾燥するために肌の水分が蒸発し、皮膚の表面がかさついて、ちょっと
した刺激にも過敏になって、痒みが発生するのだとか。
 幼児や高齢者に多いと言われたら、まさか幼児のはずはないから、う
ぇーん、肌はもう高齢者ってかい。
 高齢者という言葉にうろたえた私は、フランス語の新婚を直訳すると
「若い夫婦」になると知った時、「若くなくても?」としつこく聞いて、
苦笑されたんだっけ。
 まあ、肌に関しては、長年、ごく普通にタートルネックのセーターや
ウールの肌着を着用できていたことを思えば、やっぱり、徐々に若さか
ら遠ざかりつつあるのかも。
 家だと、首の部分をぐいんと伸ばして掻けるけれど、外では、それは
できない。
 コットンシャツの第一ボタンを開けて、首に絹のスカーフを巻き、カ
ーディガンを羽織ってみた。
 男の人が、俺はサラリーマンとは違うんだゼ、と組織からの自由さを
アピールしたい時、髭を生やすか、長い髪を後ろで止めて馬の尻尾にす
るか、ネクタイ代わりにアスコットタイを首に巻くのは、それぐらいし
か選択の幅がないせいなのだろうが、それだけに、敢えてそういう格好
をする人を見ると、痛いほどの気合いが重く感じられていた。
 なのに、その真似をするようなことになるとは。
 ところが、英語を教えている小学生の女の子に、
「かっこいい」
 と褒められた。
 女だと、数あるおしゃれな着こなしのうちの一つと見てもらえるので
あったか。女に生まれてよかったなあ。
 ちなみに、その子はネックがやや変形したデザインのタートルセータ
ーを着ていたけれど、私は羨ましがらなかった。
 その手のおしゃれはたっぷり堪能して、もう卒業なの。これからは、
あなた達が真似できない大人のおしゃれで、もっともっとあなた達を引
き離していくからね!
 負け惜しみだと知るは我のみ。
 そうやって、巧妙に自尊心を保ちつつ、後輩達と張り合おうとするの
が、大人なのでした。