店員のいい時、悪い時

 毎年、知り合いのフランス人が風景写真入りのカレンダーを送ってき
てくれる。今年は卓上でなく大判のが届き、さすがに、もらう一方の自
分自身を反省する気持ちが芽生えて、即デパートへ。
 デパートなら、和風の食器か布が見つかるだろう。
 と、たまたまアンティーク市が開催されており、半紙や紙の一枚物を
ぱらぱらめくっていると、そこで見つかる気がしてきた。送料も安く上
がることだし、ぜひ、そうしたい。
 願いが通じたのか、江戸時代の復刻版画に辿り着いた。
 私の目に〃いい構図〃と見えるものを選べばいいのよね。
 でも、なんか不安。誰か、アドバイスしてくれないかなあ。
 店主は昼の休憩中とかで、自分でも何を聞きたいのかわかっていなか
った私は、自分自身の審美眼だけを頼りに選ぶ肚が決まった。
 やがて店主が戻ってきて、聞けば、私が見ているのは、帙(ちつ)に
入っていた中身をばら売りするもので、値段の差は彼の主観によるとか。
腑に落ちた私は、再び、選択作業に戻った。
 そこへ女性客がやってきて、ささっと選ぶと、私に、
「あのお、これはなんなんですか」。
「・・・江戸時代の版画の複製です」
 それも知らずに買うつもりだったの。
 いや、自分が気に入り、値段も了解できるのが買う動機の基本とする
なら、彼女はもっとも純粋ということになる。
 が、続いて、「どこでお金を払うんでしょう」
「あそこにレジがあります」
 にこやかに答えつつ、心の中で、私も客なんですけどォ。
 この財布の値札はどこに付いているのか、とか、隣の客に話しかけら
れるたびに、なんで店員に聞かないの、と不思議だった私。
 でも、版画を一枚持って別のコーナーに移動し、安くても、やっぱり
オリジナルかなあ、と半紙に描かれた水彩画の束からめぼしいのを抜き
出していたら、そこの店主に「絵を描かれているんですか」と話しかけ
られ、客が店員を避けたい心理がわかることになった。
 滅相もない、外人向けに探しているんです、と言ったら、版画の印刷
物を勧められたのには、「印刷は深みがないから」と答え、そこで一旦
会話は終了したはずが、彼は私の視界に留まったまま。
 私が手にしているのは、そういう水彩画をたくさん描き残したお坊さ
んの作品だと教えてくれるのはありがたいけど、何か買っていくのだよ、
という念力も伝わってきて、私は、念力に屈して買うことはできないの
です、と心の中で詫びると、その場を去った。