電卓の寿命

 私は暗算が苦手だ。特に引き算は。
 日本人なら、1979年生まれの人が今何歳かを知りたければ、2022
から1979を頭の中で引き算するだろう。
 私は日本人。
 でも、フランスのお釣りの渡し方をアレンジした計算方法をとる。
 フランスでは、1979通貨の商品代金の物を買うのに客から2022通
過を渡された場合、客に1を渡して1980と言う。次に10を二枚渡して
2000。さらに10を二枚渡して2022。最後に1を二枚渡して202
2と言ったら、完了。
 問題は、この方法だと、お釣りの総計がわからないことだ。
 なので、私は、1979に10を四回足したら2019になるな、と指を
折って計算する。ここまでで40。
 これに3を足したら2022になるから、その人は43歳なんだ、と理解
するのである。
 こんな私だから断言できる、日本の引き算の計算方法は難しいと。
 幸い、今は電卓がある。
 電卓の液晶の文字が急に薄れた。
 太陽光に当てると文字が出るが、電灯の下だと駄目。
 電卓は半永久的だと思っていたのに。
 買い買えねば。
 しかし、インターネットはすごい。
 私と同じ状況になった人が、電卓を分解して内蔵電池を替えたら解決した、
と写真入りで紹介しているページがあったのだ。
 電卓はソーラー電源だと言われるが、大抵、太陽光と内部電池が電源で、
しかも太陽光だけでは用を為さないことがわかった、という意見には大きく
頷ける。
 内部電池は、乾電池あるいはバッテリー。
 もし乾電池なら、替えれば済む。
 分解・・・。
 引き算よりも苦手だ。
 でも、新品の電卓はそう高くない。
 ならば、今のが壊れてもいいと思って分解してみてもいいのではないか。
ボタン電池の方が安いし。
 ネジは簡単にはずれる。
 だが、それで蓋がはずれるわけではない。
 かなり力を入れねばならず、壊れてもいいと思っていても、壊れるのでは
ないかと心配になりつつ、作業を続行。
 なんとか開いた。
 そして見つかるボタン電池
 LR44。
 買い置きの中になかったので、買ってきた。
 蓋は、数ヶ所、本体と蓋のそれぞれの凹凸を噛み合わせる場所があり、開
ける時は抵抗に遭うが、はめ込むのは簡単だ。
 電卓が復活した。
 やったあ!
 ささやかでも、私にとっては大いなる達成感である。
 ただ、後日、ふと見たら、このボタン電池の買い置きがあるではないか。
 ない、と思って探したから、見つからなかったのか。
 本当ならボタン電池代もいらなかったのにと、ちょっとけち臭い後悔が残
った。