打ち明けるに、時あり

 今年も奈良のお水取りに行った。
 行けて嬉しかったなあ。
「行けて」というのは変だ。行きたいなら行けばいいのであって、一人
は嫌、というのでは、本当にしたいことはできない。だけど、外国には
平気で一人で行っているしなあ。お水取りにそこまでの熱意はなかった
ということだろうか。
 実は、一緒に行く約束の友がいたのだが、この時期は都合が悪くなっ
たと言われて、私は潔く諦めていたのだ。
 そこへ別の友から電話があり、京都に行くので、「久しぶりに、泊ま
って話し込みたいねえ」と一緒に泊まろうと誘われたものの、私がわざ
わざ泊まる距離ではない。
 昼か夜かは関係なくて、要は時間の長さでしょう。それに昼の方が頭
が冴えていいんじゃないの、と合理的に判断する私は、一泊でも旅行の
準備をすることになるのが億劫だったのだ。
「修学旅行みたいに」と言われても、夜更かしは見回りの先生に叱られ
て無理だったと思うよと、どこまでも私はつれない。
 奈良も近い。
 ただ、お水取りなら泊まる必然性を納得できるという自分本位の理由
から、お水取りの説明をし、今年は行けなくて残念だと言ったら、友が
俄然興味を示し、私は電話をしつつパソコンでホテルの空き室を調べる
ことに。
 魔法のように空き室が見つかると、友が「予約してェ!」
 結果、二月は京都で昼間、三月は奈良で一泊二日、私は彼女と遊んだ。
 そして、彼女が夜にこだわった訳がわかった。
 彼女には私に聞いてほしいことがあった。しかし、口火を切るまでに、
無駄な時間がたっぷり必要だった。
 私の態度も良かったと、私は秘かにうぬぼれている。
 私は、彼女から積極的に聞き出そうとしなかったのだ。
 だって、もし彼女が話したくても話せないというのなら、私にとって
好都合。私は私で、話したいことがある。人は誰しも、聞くより話した
いものなのだ。
 あれこれ話題を探し出してきては、機嫌良く、お気楽に喋り続ける私
に、彼女は、このままでは私に会話を主導されたまま終わると焦ったの
ではないか。こっちの話はもっと深刻なのよと腹が立ってきたのかもし
れない。とにかく、彼女は彼女の核心の話題を持ち出す勇気が出た。
「なんでも遠慮なく相談して」とか「なんでも言って」と親切心いっぱ
いの人が、絶対、相談相手にしてもらえないのは、両手を広げて待ちか
まえている態度が、好奇心剥き出しで、警戒させてしまうからなのだろ
う。
 奈良の夜、私達が寝たのは朝四時だった。