品質表示を信じるより

 母のマフラーは、ぼろぼろ。
 安く買って着潰すのでいいから、服は数持ちたい母が、小物はそうい
うことでいいの。
 私は寒いと喉がやられる「喉ご用心」体質で、首を温めることに関し
て妥協できない。
 去年の冬、バーゲンでカシミアのショールを母に買って渡したら、そ
ういう大判は使い慣れないせいか、一度も使わず、春、クリーニングす
ると、私が使えば、と返してきた。
 その失敗に学び、今年の冬のバーゲンでは、母にマフラー。
 またカシミアだ。
 今回は、返されなかったが、「色が合うコートの時でないと使えない」
とか「こんな近所で使うのはもったいない」と、どこかに仕舞い込み、
もう春も間近だというのに。
 そして、半額で五百円になっていた、とアクリルのマフラーを嬉々と
して買ってきた。
 我が母君よ、あなたはそのレベルが心落ち着くのだね。
 と、通りすがりのデパートで、ワゴンセールに何気なく近寄ったら、
税込み五百二十五円のマフラーに私の手が触れた。
 エンジとベージュのチェック柄は、母のぼろぼろのマフラーとよく似
たデザイン。これなら母もすんなり乗り換えてくれるだろう。
 ところで、このマフラー。品質表示は絹100%とある。
 店員に確かめると、「前はもっと高かったんです」って、本当に絹で
すかという私の質問の答えになっていませんけどォ。
 絹100%のマフラーは、昔、父が持っていて、その光沢、肌触りを、
私の指はしっかり覚えている。これは、どう転んでもウールだよ。
 それでも、手に触れた感触からお買い得だと判断したので、品質表示
の嘘は無視できたが、家に帰ってタッグを見ると、ロンドンの有名デザ
イナーと提携し、日本で生産されたとして、名の知れたブランドではあ
りませんか。
 けど、品質表示には中国製とある怪。
 汚染米の不正転売で、破産手続きの申し立てを余儀なくされた三笠フ
ーズの元社長秘書、古谷幸作は「食用に混ぜて、消費者や取扱業者が混
入に気づくかどうかテストした」と述べたらしいが、そういうことなん
だろうな。
 カシミアだって、混用率を偽ったとして、伊勢丹コムサイズムの親
会社が公正取引委員会から排除命令を受けたことがあるし。
 だが、ファッション製品の素材は、食品に比べて、素人でも目利きに
なりやすい分野。
 買わなくても、触れて、学んで、正しく評価できる消費者になること
から始めませんか。
 だって、馬鹿にされ続けは、不愉快じゃない。