夏メタボ

 私は夢遊病者ではない。と思う。
 が、朝起きると、パジャマのズボンが、からだから離脱している。
 ところが、寝苦しいからズボンを脱ごう、と夜中に意識した記憶が一
度もないのである。
 無意識に脱ぐのがズボンだけ、という妙な律儀さにも、困惑だし。
 とにかく、毎朝毎朝、ベッドのどこかに、私の意志とは無関係に脱ぎ
捨てられたズボンを見つけることが続くと、どうせ脱ぐのに着て寝る必
要はあるのか、と思えてくる。
 で、着るのを止めた。
 ところが、きのうの明け方、「う・・・やばい」と三秒後に遭遇する
はずの嫌な予兆を察知して目覚めたものの、回避が間に合わずに、右足
がつった。
 剥き出しの足で寝ていたのがいけなかったのかなあ。
 夜中に無意識に脱ぐとしても、体温調整の目的で、今この時でなくて
はならない、という時をからだが感知してそうしているのであれば、睡
眠を妨げられるわけじゃなし、「賢いからだよのう」と感心して、任せ
ておけばよかったのではないか。
 クーラーなし。
 窓を閉めて寝るが、暑さに参ったら、起きて、開ける。その時にはさ
すがに意識がはっきり戻るが、今年は窓を開けずに済んでいて、亜熱帯
化した日本の気候にからだが順応したんだ、と良いように考えていたら、
「暑さを感じられないほど、バテているんじゃないの」と友達。
 西日本の七月は戦後三番目の暑さを記録したと聞くと、確かに、私の
からだが危ないほど鈍感になっているとみた方がよさそうではある。
 昨夜、眠くて眠くて、早々に寝たのに、朝も起きられなくて、十一時
間の連続睡眠。
 パジャマのズボンは、やっぱり脱ぎ捨てられている。
 体重計に乗れば、溜め息。
 私は、毎朝、五十グラム単位で計れる体重計で、体重を計っている。
数値が増えていると、前日に食べた物を大雑把に検証することになり、
結構いい抑止力になってくれるのだ。
 それが、多少の上下動はあっても、体重がこの数値を越えることはな
い、という安心の限界を、七月は七回も超えてしまい、今日も超えた。
 データを見返したら、去年の七月と八月もそうである。
 夏バテってこと?
 夏。暑さに腹が立ってくると、たかが暑さごときで食欲が失せてたま
るか、と生存本能がむくむく闘志を燃やす、その挑戦的態度こそ、暑さ
で神経がいかれた証拠かも、というわけだ。
 蝉がやかましく鳴いている。
 君達は、メタボとは無縁なんだろうね。