デパートの催事

 さらっとした空気。
 それを裏付けるように、湿度は一気に三十パーセント台に下がり、私
の癖毛も、心なしか巻きがゆるやかになった。
 だが、乾燥したフランスでも、雨が降れば湿度は高くなるはずが、驚
異的に直毛を保てていた過去を思い出すと、癖毛の巻き状態を左右する
のは湿度だけではない気はする。
 先日、髪を切った。
 友達と写った写真を見たら、ちゃんとブローしたのに、アフロヘアに
なっていて、絶句したからだ。
 これはもう、髪を伸ばして、重みで巻きをゆるめるしかないんだわ。
 しかし、秋を前に、髪型を整えたい。
 後ろを五センチほど切り、髪も随分すいてもらった。
 だ〜れも気がつかない。
 いつものことだが、夫が気づいてくれないとぼやく妻たちだって、友
人知人の誰か一人ぐらいは気づいてくれるだろう。
 私はそれ以下。切ないなあ。
 家庭教師先の中学生に、
「ひと巻き分、切ったぐらいじゃわからない」
 と言われたが、皆を代表する意見なのだろう。
 ところで、ヘアサロンで、担当者が、ブローはこういうブラシで根元
から伸ばすのが一番なんです、と教えてくれた。
 私も、彼が使っているような猪か豚毛のヘアブラシを持っていた。
 しかし、抜けて絡まった髪の毛が取り切れず、それでもブラシを洗え
ないのは、ブラシの汚れが髪に移りそうな気がした時に、捨てた。
 そう話したら、「僕は洗ってますよ。六年ぐらい使っているけど、大
丈夫です」
 え、そうなの。
 すると、デパートで『日本の伝統・職人の技』という催しがあり、洗
ってもいいのか訊ね、乾かし方も聞いてから、ブロー用を一本購入した。
 それにしても、この売り場。
 私は周りを見回して、嘆息する。
 どこのデパートでも、この手の催事は、いつも同じ、古くさい雰囲気。
 それで集客できているならいいけれど、気まぐれに立ち寄った客は、
すかさず声をかけられるのが嫌で、二度と来たくなくなる。
 静電気で髪を痛めないヘアブラシや、化粧用の高品質の刷毛は、伝統
を売り文句にしなくても、一階に場所を移し、接客も、商品特性をちゃ
んと語れる若い女性に任せれば、おしゃれに本気の女性たちに売れるだ
ろう。少なくとも、デパートの最上階で、百年一日のごとき売り場に甘
んじているよりは。
 あまりに売れなくて、生産者が減り、買いたくても買えない未来は困
るから。
 たった一つのデパートでいいです。
「現代でも良く売れる伝統」で儲けようとしてくれませんか。