金魚のフン

 夏に金魚すくいで捕ってきた金魚が、少し大きくなった。
 四匹手に入れたうち、一日目に捕った二匹である。やっぱり、子供達
にさんざん弄ばれない初日に捕った方が生き延びてくれるのかなあ。
 さて、二匹の居住環境は、水以外は見事に何もない水槽。濾過装置も
砂利も水草も、何もない。
 清潔な水だけは心がけるから、それで立派に生きて、というのが私の
飼育方針なのだ。
 水が汚れないよう、餌は、百均で買ってきたプラスチックの桶に、こ
れまた百均で調達したお玉で金魚をすくって移し、そこで食べてもらう。 
 が、水槽の底に、餌と同じ緑色が溜まる。
 そうかあ。餌とフンは同じ色なんだ。
 当たり前かもしれないが、ちょっと不思議にも思う。
 夕食の時、母が、
「あ、金魚がフンをしてる」と声を上げた。
 私は、二、三度目撃しているが、母はまったく遭遇したことがないと
ぼやいていた。そんな場面を目撃されるのは、人と同じで、金魚も積極
的には嬉しくはないかもよ。
 さて、母である。
「金魚のフンって、本当にこういう状態なのね」
 いたく感心するので、私は笑いがこみ上げてきた。
 私も、ゆらゆら体からぶら下がって離れないのを見て、腰巾着のよう
な状況を揶揄するのに「金魚のフン」は言い得て妙、誰が思いついたん
だろう、と初めて見た時、大感激した。
 言葉の指し示す具体像を目撃すると、誰もが新発見をした気分で嬉し
くなるのだろうか。
 そう言えば、私は、毎朝、カナリアの餌箱の中の穀類を、ベランダで
吹いて食べかすの殻を飛ばすのだが、餌箱がプランターに当たったはず
みに、餌がプランターの土にこぼれ落ちた。
 落ちた餌はスコップで取り去ればいい。それを、プランターを傾けた
ら餌がゴミ箱に落ちてくれる、と浅はかなことを閃き、実行したら、ス
イトピーの種を蒔いたばかりのふかふかの土が、プランターの中で大き
く偏る。
 慌てて止めたが、餌は土に埋もれ、勘で適当に取り除く羽目になって、
急がば回れ」を反省することしきり。
 しかも、その辺りから芽がにょきにょき密集して伸び始めた。
 スイトピーではない、と思うものの、確信が持てず、抜くのがためら
われる。
 が、命は命でないと育めないと言うけれど、土があるとちゃんと芽が
出る穀物を食べているうちのカナリアは、まっとうな食生活だとわかっ
て、「瓢箪から駒」の発見だったなあ、と喜ぶ私。
「色の白いは、七難隠す」
 発見は、失敗を誤魔化す?!