世間の目

 自営業の親を見て育つと、娘でも、抵抗感なく自分で仕事を立ち上げ
られてしまうのだろうか。
 そんな友がいる。
 自分の給料も出るか出ないかなので、パートタイムでしか人を雇えな
い現状だが、新たに人を雇うことになった。
 うち一人は独身女性。独身だから一番気兼ねなく長時間働いてもらえ
る、と友は期待した。
 新メンバーを加えたシフトで仕事を開始して、一週間目。
 その女性が、週五日は大変だから四日にしてほしいし、朝はもう少し
遅いスタートにしてほしいと、職場で直接言わずに電話をかけてきて、
友は鼻白んだものの、意向に沿うようシフトを作り直した。
「でも、そのうち辞めると思う」
 同じ時刻に退社する同僚が、その時の状況から好意的に若干居残って
も、その女性は五分前には帰り支度を済ませ、定時にさっさと退社。同
僚達のあいだに驚きが走った。
 肝腎の仕事では、周りの様子を見て、自ら動こうともせず、ぼーっと
している。
「何歳?」
「二十九。でも、歳は関係ないと私は思ってる」
 なるほど。
「じゃあ、社会人一年生だと思って、これして、あれしてって指示すれ
ば、素直に動いてくれるんじゃない」
「でもねえ・・・。返事も、ハイハイってハイを二回言うから、イラッ
とくる。私、おかしいかなあ」
「それも、人を不快にするからやめなさいって教える」
「ええーっ。三十間近の人間に、そんなことまで教えるの」
 なんだ。やっぱり、年齢で人を見てるじゃない。
 結局、その女性は、出勤時間が不規則だと体調が狂うとか言って、出
勤十分前に休む電話をしてきたり、無断欠勤したのち、母親に、労働条
件をさらに変更してくれないかと代理で電話させ、友が拒否すると、職
場を去った。
 年齢は関係ない。それでも、ある年齢を超えると、もう手取り足取り
教える時期は過ぎて、なぜだか社会的に未熟な人、として見限ってしま
う冷酷さが世間にはあるのではないか。
 就職活動中の学生達が滑稽なほど一律のリクルート・スタイルなのは、
服装で自己主張したい自分と、それだと厳しく減点するだろう社会の目
を天秤に掛け、入社するまでは無難に猫を被っておこう、と計算できる
賢さがある証拠。
 で、私は思い返すのだった。入試試験に合格しても、服装や態度で不
合格とするケースがあると内部告発され、校長が任を解かれた神奈川県
立神田高校の一件だ。
 十五歳は、社会的に非常識でも仕方がないと見なすか否か、というこ
とである。