卒業ソング

 私が英語の家庭教師をしている中学三年生は、今日が卒業式。
旅立ちの日に』を歌うのかと聞いたら、
「あんなの古い」と一蹴。
 あ、そ・・・。
 私は、その曲の存在を知ったばかりなんだけどね。
 どこかの中学の先生が作った曲で、全国の卒業式でよく歌われている、
という情報を小耳に挟むと、歌詞を知りたくなったのだ。
 まさかウィキペディアに一項目立てられるほど有名とは予想できず、
地道に検索したため、歌詞に辿り着くまでにちょっと時間がかかった。
 ほぼ同名の別の曲などに検索を攪乱されたのだ。
 で、思いました。
 みなさん、曲名にも、もう少し凝ってくれませんか。歌詞のオリジナ
リティだけで勝負しないでサ。
 さて、『旅立ちの日に』だが、歌詞がわかれば、メロディも知りたい。
 それはYou Tubeがあっさり解決してくれる。
 この曲の動画を幾つか見たのち、中高生が歌う別の合唱曲にも立ち寄
り、私は圧倒された。
 なんて眩しいんだろう、君達は。
 大袈裟なまでに顔の筋肉を動かして歌う彼、彼女らの表情はかなり滑
稽だし、みながみな美形ではない。
 けど、人の価値は顔なのかい、と挑発してくるように、誰もが最高に
輝いて、ああ、これが、その季節の者達だけに等しく与えられた天から
の贈り物なんだ。
 子供の頃、親戚に会って、「いやぁ。大きくなったねえ」と言われる
と、私は心の中で不満顔だった。
 大学生の時には、つるんとした自分の手の甲を眺めて、いつかこれが
シワシワになるんだ、今のこのつるんを記憶しておこう、と思った。
 年相応、つまり当たり前であることに、私自身も、他人も、ことさら
驚くことがあるのか、という気持ちだったわけだが、基本思考がかよう
であると、私に遅れて、今、最高に輝く季節にいる者達のことも、「番
茶も出花」と割と身も蓋もない言葉で言い表わすのが、本当は心にしっ
くりくる。
 なんにせよ、その年代の良さは、自分が一生のうちで一番輝く季節に
いるという自覚がないことではないか。もし、十分に自覚があり、それ
を武器にしているとうそぶく者がいたとしても、真の価値に気づけるの
は、やっぱり、失ったあとだと私は思う。
 家庭教師先の中学生の学校では、卒業式にアンジェラ・アキの『手紙』
を歌うらしい。
「菊先生の歌」
「はァ?」 
 彼女は、常々、私がアンジェラ・アキに似ていると言っている。
 その不確かな観察眼は、年相応の幼さ、とはちがうのだろうか。