おみくじの「凶」

 奈良のお水取りが終わると、春、とはよく言ったもので、今週に入っ
た途端、ダウンコートは、もう明らかに季節外れの暖かさである。
 お水取りに行ってきた。
 何を着てゆくか決めるために、出発前は、毎日、気温をチェック。我
が街では、日ごとに日差しが強まり、春の装いの人達も増えている。
 ウールのセーターをしっかり着込めば、スプリングコートで大丈夫、
よねえ・・・?
 じゃあ、春用のウールのセーターでも探しましょうか、とデパートへ。
 一階に、派手な色彩を多用して、ポップなデザインだが、持つだけで
気分が弾んできそうな大人向けのカジュアルバックのイベント・コーナ
ーができている。
 ふらふらと引き寄せられるものの、肩から掛けるタイプはない。
 それでも立ち去るに忍びなく、店員に、出来て何年になるブランドか
とか、常設店はどこにあるのかと訊ね、肩から提げるタイプはないかと
質問すると、要望が多くて作ってもらっているが、いつ、どんなのがで
きてくるかわからない、との返答。
「旅行用に考えているんですよねえ」
 今買うのであれば、それが最優先になる。
「だったら、やっぱり両手は空いた方がいいんじゃないですか」
 そんなことを言ったら売れないのに、商売っ気抜きで本音のアドバイ
ス。
 それが嬉しかったからかなあ。奈良にお水取りに行くのだと口から出
た。
 と、「私、担当者の人が休むことになって、呼ばれて、奈良から来て
いるんです」。店員も、私的なことを打ち明けてくれる。
 ええっ!
 私は、すぐさま、何を着ていくべきか、相談。
 その日なんとなくデパートに行った方がいい気がしたのは、彼女から
貴重なアドバイスをもらうためだったかもしれない。
 おかげで、迷いなく冬のダウンコートを着てゆくことができて、大正
解。
 風はまだ冷たかったし、おまけに雨。
 だが、雨ぐらいでお松明の火が消されるなんてことはないらしく、友
は、火の粉を浴びたフード付きの雨合羽のあちこちに穴が開いた。
 私は、ナイロンのウィンドブレーカーを着ていたので、燃えずに灰の
跡が残っただけで済んだが、雨に油断してナイロン袋をかぶせ忘れたカ
バンは、穴は開かないまでも、火の粉の跡が変色。
 けれども、それ以上の驚きは、火の粉をふんだんに浴びて罪や穢れが
焼き払われたはずなのに、直後に引いたおみくじが「凶」だったことだ
ろうか。
「凶」を作っていない、ことはない、と実体験できたのは大いなる収穫
だけど。