Tシャツ一枚250円

 突然、服を着替える間もなく出かける必然に迫られても、まあ、いい
か、と動じないでいられる人はどのぐらいいるのだろう。
「よそゆき」と「家の服」の落差が少ないほど裕福と聞き、いたく納得
した私自身は、落差が半端でない激しさ。
 夏、家での定番はTシャツだが、一番新しいのでも、いつ買ったのや
ら。みんな色褪せているが、それだけでは捨てる決意に直結しない。
 それでも、来年の夏までこれらを保管することになるという目で眺め
ると、家用だとしても、あまりによれよれなものばかりで、さすがにげ
んなり。
 連休に大型量販店に行き、普段なら見向きもしない大きなサイズコー
ナーの、Tシャツが平積みされた一角にふらふら吸い寄せられた。
「五十%オフ」の大きな文字に惹かれたのと、太った人向けのTシャツ
のデザインを見てみたかったのだ。
 値札は、元値の九百八十円が五百円になっているところに「レジにて
表示価格から五十%オフ」の赤札。
 え。一枚二百五十円?!
 信じられなくて、店員に問うと、そうだと言う。
 生地厚だし、柄も今風のおしゃれなのが勢揃い。
 私はニホン女性の理想身長かつ逆三角形の体型のため、このコーナー
の最小サイズのLLが、もしかしたら身に合うかもしれない。
 体に当ててみると、肩がずり落ちてまずいというほどの大きさではな
い感じ。
 とりあえず五枚購入し、家で着たら、合格の寸法。
「生地もしっかりしてるし、この際、総替えしたら」と母。
 サイズが合えばそうするつもりでいた私は、そう言われると、そうか
あ、身近な人間に一番気を抜いた、いや、気を抜きすぎた格好を見せつ
けている日常であったかと、ひそかに恐縮。
 翌日再度出かけていって、今度は十三枚、「大人買い」した。
 ちなみに、母は4Lを五枚購入。
 ところで、私の手持ちのTシャツ達はどうしよう。
 雑巾用に置いておこうにも、すでに、使い古したタオル類が長い順番
待ちという現状。
 すると、古着を持ってゆくと三百円券に替えてくれるリサイクル・イ
ベント中というではないか。
 引換券の使用期限は今月末。
 一着千五百円以上の衣類を購入する時、千五百円に付き三百円券を一
枚使えるという条件では、実際にその券を私が有効活用する可能性は、
限りなく低い。
 が、捨てるに捨てられない物達を心安らかに手放せるチャンスと思う
と、ただもうありがたく、今、私は古いTシャツなどをせっせと持ち込
ませてもらっている。