長生きも、つらい

 ずっと忙しかった。
 図書館の本は、一ページもめくることなく貸出期限を迎え、懲りずに
再予約するのが当たり前だと錯覚しそうになるし、寝る時刻が来ると、
「ああ、もうそんな時間・・・」
 寝る直前まで頭をフル回転させている感覚にふと不安を覚えたのは、
肉体からの警告であったか。
 早朝のまどろみの中、嫌な感じに襲われた。
 以前、朝起きたら、視界に入るすべてがゆったりグィ〜ンと動き続け
る症状に見舞われたことがあるが、その始まりの予兆に酷似している。
 疲れすぎて、三半規管が、また、あやしくなってきたのね。
 わかっていて、大きく寝返り打ったりして、何やってんのよ、私のか
らだ。
 幸い、吐き気を伴う強烈な症状には至らなかった。
 だが、食欲はなく、頭痛がする。
 医者に行きたくても、十一月三日は祝日。
 昼間、はずせない用件があるけれど、普通の振りをし通せるかなあ。
 なんとか乗り切った。
 そして、無理は禁物、とつくづく思った。
 その翌日。
 今度は、カナリアのピィが調子悪い。
 数日前から、昼間でも、食べるとすぐ羽根を大きく膨らませ、その中
に頭を突っ込んで眠るようになっていたが、その朝は、普通なら、籠の
掃除のあいだ、小さい籠に移ってくれるのに、それすら大儀なようで、
拒否された。
 五歳は、もう、死が目前ということなのか。
 メスを飼っていた時購入しておいた藁の巣があるので、入れてみると、
その巣にすっぽりおさまり、眠り続ける。
 鳥が止まり木から落ちて死ぬ「落鳥」は悲しい死に方だといつも思っ
ていたので、少なくともそれは防げそう、と思うと、少し心が慰められ
る。
 が、ピィは午後三時頃に巣から出ると、一時間ぐらい餌を食べ続けた、
と母が告げる。
 そして、そのまま見事に回復した。
「もう、寝ないよ」
「食べてるよ」
 当たり前のことが、かくも嬉しい。
 私もピィも、峠を越えた。
 私の忙しさも。
 季節は秋。さあ、ようやく、この美しき季節を満喫だぁ、と思ったら、
母とはかなり年の離れた長兄が他界したという連絡。
 長年、老人ホームだか病院だかに入っていたが、最後は「家に帰りた
い」と訴えたそうな。けど、願いは叶えられなかったと聞いて、母は憤
怒するも、私は、ああ、切ない、生きるって、だから切ないんだなあ、
と思うばかり。
 歳を取り、自分で自分の世話ができないために、食事や風呂や就寝時
間が自分の意のままにならない生活を甘受するしかなくなったら、私も
きっと思うであろう。
 ああ、家に帰りたい。