私の長引く咳を「アレルギーが原因」だと特定してもらえたのはあり
がたかったが、聴診器を当てず、喉の中を診ることもなく、そう診断さ
れたことは戸惑いではあった。
聴診器診断は、内科医の基本中の基本じゃないの。
まあ、気に入らないなら、次回は別の医者に行こう。
こうやって人は医者難民になっていくのかなあ。
しかし、この病院は、外の看板に、内科以外に特別な疾患名を幾つか
掲げている。
受付けでは、
「うちは予約制なんです。待ってもらうことになりますが、いいですか」
予約制の内科?
初めて聞いた。
要は、ここは予約して通院するような患者が専門なのか。
慢性疾患の人とか?
だから、先生は聴診器をぶら下げている必要がないのか・・・。
先生と向き合いつつ、そんなこんなを考えていると、咳の処方の話を
し終えた先生が、一枚の紙切れを差し出した。
「尿検査で潜血反応が出ました」
おお、そうだった。
咳で来ただけなのに、診察前に尿検査を求められたが、これも、ほか
の病院では経験ないこと。
潜血反応ねえ。
私は、健康診断で、これが出なかったためしがない。
毎回、「心配なら泌尿科で検査してもらってください」と言われ、毎
回、気になりつつ、面倒で放置してるうちに、次の健康診断が来る。
やっぱり潜血反応。
体調が少し悪くなると、潜血反応が+になる病気のせいなんだわと決
めつけるし、長生きはできまいとも勝手に思い込んでいる。
が、ずっと棚上げしてきた問題をここで取り沙汰されるのは不意打ち
の感があり、ああ潜血・・・と暗い気分になった私に先生は言った。
夜寝て、からだを長時間横たえているあいだの尿が重要なので、早朝
尿を持ってきなさい。
陰性なら問題なし。
そうでなければ、泌尿科を紹介します。
ところが、先生はその件を看護婦に伝達し忘れたらしく、私は、一瞬、
私も聞き忘れたことにしようかと迷った。
そうせず、尿検査キットを求めたのは、家から一分の距離なので、早
朝尿を持って行くのは苦にならなかったからだ。
ならば、この際、きちんと潜血反応の理由を突き止めておいた方がい
いのではないか。
覚悟を決めて臨んだ私に、結果が言い渡された。
「問題ないです。陰性でした」
「うわぁ! ありがとうございます!」
検査の結果は、先生のおかげじゃない。
でも、先生のおかげで、長年のかそけき不安から解放される機会を得
た。
そうなると、「案外、この先生、信頼できるかも」と考え始めるから、
我ながら、人の心って、ああ、玉虫色。