ミスは重なる

 きのう、弟一家が来た。
 私は、引き受けている英語のレッスンがあるので、彼らと少し話をす
ると、家を出た。
 夕方、玄関に近づきつつ、弟達はもう帰ったかなあ、とのんびり思っ
ていたら、呼び鈴ボタンの下の四角いパネルが妖しく光っているのが目
に飛び込んできて、一瞬にして緊張する。
 でも、おたおたしなかった。
 これは防犯設定が作動中というサインではないか。
 家に入ると、みんながセコムのパネルの前に集結中。
「どうしたん」
 口々の訴えの中で唯一理解できる情報は、
「セコムの人が来てくれる」
 やっぱりセコムね。でも、
「その必要はないのに」
 私はそう言うと、玄関を出て、防犯設定を解除した。
 怪しい光は消え、家の中のセコムのパネルの防犯マークも消える。
「でも、とにかくセコムの人が来てくれるから」
 要は、もうそれを止めることはできないってことなのね。
 待つあいだに言い分を聞いた。
 彼らは、私より一足先に外出から戻ってきたばかりで、弟は、姪ッ子
以外の人間をマンションの入口で車から降ろし、車を来客用駐車場に停
め、徒歩で入口に着くと、インターホンでオートロックの扉を開けるよ
う求めた。
 母はボタンを押すが、扉が開かない。
 その映像を横で見ていた嫁さんが、ほかのボタンを押してみた。
 母は、いっそ一階まで迎えに行こうと、玄関から外に出た。
 途端に警報音が鳴り出した。
 第一のミス:母が受話器を取らずに、オートロック解除のボタンを押
した。
 受話器を通して来訪目的を聞いてから、ボタンを押す手順になってお
り、映像で知人だと確認できたからといって、いきなりボタンを押して
も扉は開かない。
 第二のミス:嫁さんがボタンを押しまくり、「在宅セコム」状態にし
た。
 この状態で玄関のドアを開けると、不審者侵入となり、セコムに通報
が行く。母がドアを開けたことで、そうなった。
 しかも第三のミス。
 セコムから電話があったそうで、誤作動させたと告げたら設定解除の
方法を教えられたが、間違っていて、解除できなかった。
 三つのミスが重ならなければ、緊急対処員に無駄足を踏ませることに
ならなかったが、そうはいかないのが人の世。
 唯一の救いは、嫁さんがボタンをあれこれ押しまくったおかげで、マ
ンション中に響き渡る警報音だけは止められたことだろうか。 
 あとで、母は、一番悪いのは自分だが、訳もわからずボタンを押しま
くるケータイ世代も悪い、と言っていた。
 同感かなあ。
「ケータイ世代」という限定は違うと思うけど。