「おっしゃる」アレルギー

 アレルゲン検査はすべて陰性だが、アレルギー科に通院中。
 それって普通?
 密かに気になっていたら、
「アレルゲンが特定できない喘息を“非アトピー型喘息”と呼びます。
この場合、発作の引き金となるタバコの煙などアレルゲン以外の誘因を
避けることが重要です」
 なる記述をインターネット上で見つけ、ようやく納得。
 が、この遭遇がなければ、そこはかとない不審を持ち続けたと思うと、
「この程度のことは教えてくださいよう」
 と担当医に言いたくなる。
 新たな漢方薬「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」を処方された次の診
察の日。
 効果のほどを問われて、
「どう申し上げようかと考えていたんですが」
 私は第一声を発した。
 心の中では、
「前回、先生に“おっしゃる”って言われたから」
 わざと言葉遣いを合わせてみたのだ。
 テレビに出演する人が、
「おっしゃる」
 とかしこまるのはいい。
 でも、西日本出身の医師じゃん。
 しかも一対一の関係で「おっしゃる」と言われたら、壁を感じて悲し
くなるのは、私だけかなあ。
 自然気胸で、開業医からすぐに行くよう命ぜられた市民病院で、医師
に向かい、
「安静なら、家で寝ています」
 と述べると、
「あんたなァ。夜中に呼吸困難で救急車で運ばれても、嫌やろ」
 赦されるぎりぎりの馴れ馴れしさの中に若干脅しを込めてそう言われ
た瞬間、私は事の重大さに思い至り、
「はい、わかりました」
 素直に、そのまま入院という成り行きを受け入れられる姿勢になれた
のだった。
 しかし、もしかして、医者は、相手を見て言葉遣いを変えるのだろう
か。
 つまり、私は、アレルギー科の医師からは、高級な日本語を遣うべき
患者だと見なされた・・・?
 痰が絡む回数は随分減ったと告げたので、同じ漢方薬を継続すること
になり、そう言えば、親が夜寝る前に同じような症状になるみたいなん
ですがと言うと、
「歳を取ったらどこもかしこも潤いがなくなってくるんですね。喉の粘
膜も同じ。年寄りはよく痰が絡んでいるでしょう」
 よって、処方は同じ薬になるとか。
 んんッ?!
「てことは、私は年寄りとおんなじってことですか」
 医師は、そう当てこするつもりで言ったのではない。
 私が、私の症状と今の話を一本の線に結んで、あるべき結論に到達し
ただけ。
 けれども、その結論はむしろ痛快で、
「きゃーははッ」
 私は、診察室の外まで響く陽気な笑いを爆発させた。
 初めに、
 「申し上げる」
 と高度な言葉を遣っておいて、最後はこの破天荒。
 ああ、ややこし。
 私自身が思った。