癖? 食い意地?

「なくて七癖」の中で本人が自覚できている癖は、一般的にいくつぐら
いあるのだろう。
 電車で遭遇したことがある。
 膝の上に広げた漫画雑誌に没頭しつつ、太い指を鼻の穴に突っ込んで
は、その成果をぺろぺろ舐める男。
 指先で自分の唇を、ずっと、ずう〜〜っと触り続ける男。
 降りる駅が来るまで一心不乱に耳の穴を指でかき続けた男もいたっけ。
 彼らは、自分の世界に浸り、堂々とそれらの行為を行なった。
 その無自覚さこそ「癖」の証しなのではないか。
 私は、彼らを見ると、私自身が彼らの行為を行なっている気がしてき
て、えずきそうになったし苛つかされ、ならば目をそらせばよいものを、
自制心が怖い物見たさに屈した。
 自制心。
 私が、最近、私の「なくて七癖」の一つかも、と自覚した行動形式の
重要なキーワードとなる言葉だ。
 八月に、近くのスーパーマーケットでお中元の解体セールがあった。
 解体セールだが、ゼリーは箱詰めのまま出ている。
 ゼリー好きの母のためにひと箱買い、ついでに私用にも買った。
 一日に一個食べても、二十五日は持つ、と思うと、得をした気分。
 二十五日は長いもんね。
 確かに、初めは、朝一つしか食べなかった。
 が、すぐに、朝一つか二つ、夜も一つか二つ、食べ出した。
 未だかつてゼリーが好物になったことはないんだけどな。
 一つが55gとか65gという大きさが、ちょこっと食べるのに最適だか
らか。
 けど、ドライフルーツの小袋入りのを、これだけまとめ買いしたら半
年は持つ、と予想して買ったら、ふた月と持たなかったし、同様のこと
は結構あった。
 視界に「ある」、あるいは家の中に「ある」と知っていると、自制が
きかず、ほいほい食べたくなる。
 そして、食べ尽くして、食べたくてももう「ない」となったら、憑き
ものが落ちたようにソレなしで平気になる。
 これまでは、一つの食べ物でそういうことは一回しか起こらないので、
「私って変?」
 と自問することにならなかっただけなのかも。
 しかし、今回、そのスーパーでは、解体セール期間が終わってもワゴ
ン売りを継続したので、私は、行くと二箱、また二箱・・・と買い足し
ては、むしゃむしゃ平らげるという行為を反復したため、ようやく、そ
ういう自分の行為に意識が向かったみたい。
 この癖がいやなら、「ない」状況にすること。
 今、最後の九箱目だから、もうあとすこし。
 なんだけど、売れ残りのゼリー達を見つけてしまったのよねえ、常設
売り場の一角に。
 さあ、どうする、私!