独身が重宝される時

 最近知り合った友達と、互いに仕事の途中に、道で出くわした。
 彼女は新婚、三十二歳。
不妊治療をしている」
 と聞いていたけど、タイミング療法を初めて三ヶ月で妊娠して、今、
妊娠五ヶ月目だとか。
「おめでとう! じゃあ、治療しなくてもよかったのかもね」
 私が言うと、
「結婚して、やることをやっていても、一年間できなかったら、不妊
んですって」
 彼女はバッサリ。
 やることをやっていても・・・。
 赤面もせず語る彼女の顔を見て、私はわかった。
 女は、子供を産むとなった途端、乙女からタフなおばさんに脱皮する
んだ。
 ダンナのおかあさんは、生まれてくる子が女の子だと判明すると、次
は男の子を、ともう言い出しているし、自分の家の近くに引っ越して来
させたいらしいけど、私は嫌、など十分間ほど話をすると、再会を約束
して彼女は立ち去った。
 こういうことは割とある。
 なんで、私にそんなことまで話してくれるの。
 たぶん、私が独身だから。
 同じ境遇の友達は、それはそれで大切。
 でも、張り合う気持ちも芽生える。
 あなたのダンナと私のダンナ。
 あなたの子供とうちの子供、とか。
 それが、私が相手だとそうならないので、気楽に話せるのではないか。
 午前零時過ぎに電話を切る時、
「話を聞いてくれて、ありがとう」
 と言ったのは、四十七歳の友人。
 彼女は、両親のこと、二人の娘の性格のことなどを語った。 
 少し早いけど更年期障害が始まったみたい、とも。
 ところが、五歳年下のダンナは、彼女の体調不良に思いやりがない。
「五歳も若いから」
 と彼女が言うので、
「今は、男の人にも更年期障害があるってわかってきたから、そのうち、
ダンナさんもそうなるかも」
 慰めるつもりで言ったら、
「早くそうなってほしいわ。休みのたびにどこかへ出かけたがるし、今
年はスキーに行こうだって。私は寒いのは嫌いで、子供達と行って来て
って言うんだけど」
 ふーむ。
 ダンナが妻より二、三歳年上という標準型夫婦に属する奥さんが、
「夫が定年になってから便秘になった」
 と言うのを聞いて、その理由がとてもよく想像できたので、ダンナは
少し若いのが理想的、と結論していたんだけど、事はそう単純ではない
のか。うーん。
 なんにせよ、みんな賢明に生きている。
 そんな彼女達の話を聞くのは、小説を読んでいるみたいで楽しいし、
ためになる。
 だから、聞き役にされるのはちっとも苦にならない。
 私の方こそ、
「いろいろ話してくれて、ありがとう」
 なのだ。