トイレ(フランス旅行記)

 久しぶりのフランスで、勘が鈍っていたのかなあ。
 パリの空港に着き、まずトイレに行った。荷物を受け取る前の方が身
軽だから。
 日本女性が個室のドアを開けようとしているところだったが、彼女は、
開けたドアをパタンと閉める。
「中の人は鍵をかけていなかったのね」
 が、そのまま私の方に向かってくる。
 訳がわからず一緒に外に出て振り返ると、白いシンボルマークはズボ
ンをはいた人のシルエット。周りがオレンジ色なので、彼女も私も、女
子トイレだと早とちりしたみたい。
 白いスカートのシンボルマークは、反対側の入口。
 でも、
「掃除中」
 の立て札。
 いっとき旅の道連れとなった彼女と共に、別のトイレへ。
 私は、手に石鹸をつけて、水道の蛇口に手をかざした。
 水が出ない。
 隣の彼女の洗面台は問題がないようなので、そっちを使って事なきを
得たが、
「これだからフランスは」
 しょっぱなからフランスの洗礼である。
 でも、実は足元に押すボタンがあったとかいうのではないわよねえ。
 目の前にある物でも見落とすタチなので、今、ちょっと不安。
 さて、荷物を受け取り、外に出ると、今回の旅のアッシー君、マダム
Dが手を振っていて、飛行機が一時間も早く着いたのに、もう来てくれ
ていたの。
 おかげで夕方のラッシュアワーに巻き込まれず、車はスムーズに流れ
て、私達の車がパリ市内のレストランに着いたのは午後五時過ぎ。
 予約を開店時間の七時に早めてもらい、近くのカフェ・バーで時間を
つぶす。
 そこのトイレでは、手に石鹸をつけたあと、水を出す場所がわからな
い。
 トイレットペーパーで拭いて済ませようかと思ったけど、それでは悔
しいという気持ちが聞く恥ずかしさを上回ったので、トイレのドアを開
け、店内との仕切りのカーテンを開けたら、運良くウエイトレス。
 床に丸いボタンがあると言われても、見つけられない私に、腰をかが
め、指差して教えてくれた。
 翌日、ブルターニュに向かう道路のトイレ休憩所では、水道管が凍っ
ていて、道ばたの雪で手を洗う羽目になり、その次の日にブルターニュ
のクレープ店でトイレに入ると、石鹸のついた手で、またまた立ち往生。
 人に頼ってばかりではいけないと、とくと周りを見回し、壁に手拭き
が掛かっていたら、洗面台の下にも手拭き掛けがあるのは理屈に合わな
い、と冷静に状況判断。
 その白い棒を押したら、水が出た。
 たかがトイレの水道水に翻弄させられて、でも、こういうのも海外旅
行の楽しさかも。